第58章 逢瀬
〜杏寿郎視点〜
千「兄上、楽しんできてくださいね!」
杏「あぁ!ありがとう!」
俺は昼食を済ませた後、すぐに支度を整え家を出た。
逢瀬なんて今まで機会もなかったから初めてだ!
愛しい人に会いに行くということだけでも、胸が高鳴ってくる。
杏「要!泰葉さんの道案内を頼む!もし近づく男がいたら追い払ってくれるか!」
『カァー!』
承知したと言わんばかりの声を上げ、要は素早く泰葉さんのところへと向かっていった。
時間には余裕もあるし、気持ち的には走っていきたいくらいだが、ここは冷静になるとしよう!
杏「よし。」
おれは懐に入れたあるものを着物の上から触れて、忘れていないことを確認する。
今回の逢瀬では、俺にとって一番大事なことだ。
今日はどうしようか。
歌舞伎を見る…か?
いや、買い物の方が良いか…?
それよりも、今日は泰葉さんにはゆっくりしてもらいたい。
甘露寺が教えてくれた、新しくできた甘味処にでも行ってみるとするか!
そんなことを考えていたら、いつの間にか街の中に入ってきていた。
街の半ばまで来たところで、懐中時計屋の前で待つこととした。
ここならば時間もわかるし、あまり客の出入りもない。
カチカチ…と規則正しい音が聞こえて来る。
『あ、あの…』