第58章 逢瀬
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一方で杏寿郎は朝からそわそわしていた。
ゆっくりしてきて構わないと、待ち合わせを午後にしたのはいいものの、それまでが待ち遠しくてならなかった。
朝から何度も時計を確認し、今か今かと思っていた。
兄の様子に流石にため息をつく千寿郎。
千「兄上、まだ7時です。」
「まだ7時半です。」
……そんな調子だ。
杏「む?そろそろか⁉︎」
槇「今11時だ。杏寿郎、一度外の空気でも吸ってこい。」
終いには槇寿郎にまで言われる始末。
これには杏寿郎も苦笑いを浮かべ、父に言われた通り、少し外に出ることにした。
泰葉のいない時間がこんなに長く感じるとは…。
(これは。なかなかいかんな…。)
待ち合わせに汗をかいて行くわけにはいかない。
だから少しだけ、庭に出て木刀を振ることにした。
この時間だけは、無心になれる。
…ふう。
このくらいかと素振りをやめた時、千寿郎が声をかける。
千「兄上、早めに昼食にしますか?」
杏「うむ、そうだな!そうしてもらえるか!」
千寿郎はクスッと笑って、準備しますと戻っていった。
昼食を食べながら、槇寿郎が杏寿郎に話しかける。
槇「俺たちの夕飯は富田屋に行こうと思う。」
杏「…?そこに来いと?」
杏寿郎がなぜそんなことを?と、首を傾げる。
槇「違う。むしろ、そこには絶対来るなということだ。」
せっかくの逢瀬で、良い雰囲気になっている時に父親と弟に会いたくないだろう。
槇寿郎は気を遣って夕飯の店を伝えたのだ。
杏寿郎はそういうことか!と、自分の鈍さに笑った。
杏「分かりました!では、俺たちは富田屋には行かないようにします!」
槇「…まぁ、門限などはない。…ゆっくりしてきなさい。」
杏寿郎は、この「ゆっくりして来い」というのは、そういうゆっくりなのだろうか…と1人考える。
また泰葉に叱られては大変だ。
杏(むう、日本語は難しいな…)