第58章 逢瀬
ーーーーーーーーー
「それでね、その時…」
咲「まぁ!そんなことがあったのね。」
泰葉と咲子は話に花が咲き、あれからずっと喋っていた。
かれこれ1時間半。
すると、カラカラ…と玄関の引き戸が開く音がする。
信「ただいまー。どうだい?話は弾んだかい?」
「えぇ、おかげさまで。この間西瓜割りをしたって話をしていたの。」
ニコニコしながら信明は咲子の隣に座る。
信「西瓜割りかぁ。懐かしいなぁ。」
そう言いながらテーブルの上にコト…っと袋を置いた。
その袋から出てきたのは竹筒に入った水羊羹。
信「街で売られててね。もう時期外れだから少し安くなっていた。
…あぁ、さっき芋羊羹を食べたばかりだったか!」
ははは、と笑いながらつい買ってきてしまったと言う信明。
咲「それじゃ今晩いただきましょう。食後の甘味って事で。」
咲子はその水羊羹を冷やしに台所へと向かった。
信「あ。そういえば、先ほど杏寿郎くんを見かけたよ。」
「え?そうなの?」
信「なんだか人集りができていたから、何かあるのかと思ったら、一つ頭が飛び出していたのが杏寿郎くんだったんだよ。杏寿郎くんが歩けば、その人集りが移動していてね。なんだか面白かった。」
信明の話を聞いて、泰葉は複雑な気持ちになった。
人気者の彼を流石だな…と思う気持ちと、女の人に言い寄られていないか、その中にとびきり美人がいたらどうしよう…などの不安が付き纏う。
「あ、あのっ、それは女性ばっかり?」
信「そうだな,女性7割、男性3割といったところかな。」
(女性7割!だ、大丈夫よね。杏寿郎さんを信じなくちゃ!)
泰葉は膝の上で手を握りしめる。
すると、なんだか黒い空気を感じた。
咲「あなた…?泰葉ちゃんに何を言ったの?」
その空気の正体は咲子。
咲子は怒っている。
信明は咲子の様子に気づき、慌て出した。
信「えっ、いや、街で杏寿郎くんを見かけたよって話を…」
信明は泰葉に話した内容をざっと咲子にも伝える。
咲「もう!そんなこと聞かされたら不安になっちゃうでしょう⁉︎恋人が言い寄られてるんじゃないかって!」
その後、咲子による説教が始まり、信明はこんなはずでは…と落ち込んでいた。