第58章 逢瀬
泰葉は、ぎこちなく居間へと戻った。
襖をそっと開けると、咲子と目が合う。
咲「恥ずかしがることなんてないのよー。みんなそうなんだから。新婚の間なんて、特に…ねぇ?」
咲子は信明に同意を求める。
急に話を振られた信明は、「あ、あぁ。」と焦ったように答えた。
信「僕たちもそんなもんだったさ。今でも仲は良いと思っているが、年を重ねるとやはり落ち着いてくる。その"時期"はその時にしか無いんだから、大事にすると良い。」
咲「あら、ずいぶん良い事言って。」
そう笑い合う2人を見ていると納得する。
自分の両親もだが、この2人のような夫婦に憧れる。
いつまでも、微笑み合っていられるような。
「素敵だと思うわ。私にとって、お2人はお手本ね。」
信「お手本か、それは光栄だな!」
ははっ、と嬉しそうに笑う信明。
そして泰葉を優しい表情で見る。
信「しかし、2人は2人の夫婦の形を見つけると良いよ。十人十色というように、互いに別な人間なんだ。全てを受け入れよう、全てを受け入れて欲しいとなると、いつかは疲れてしまう。」
経験者は語る。
…しかし、きっとそうなのだろう。
今はこんなに仲の良い夫婦にも、きっと言い合いになったこともあるに違いない。
「そうね。肝に銘じます。」
泰葉はニコッと笑い、頷いた。
それに応えるように信明も頷く。
咲「杏寿郎くんは、情熱的って感じね。」
先程の様子からしても、そう見えるだろう。
それに、その言葉がぴったりだ。
泰葉は普段他人に惚気たりはしないが、今回ばかりは経験者である2人になら惚気ても良いのでは…思えてきた。