第58章 逢瀬
「こんにちはー!」
泰葉は玄関を少し開け、声をかける。
すると「はーい」と返ってきて、パタパタと足音が近づいてきた。
咲「あらあら、いらっしゃい!」
満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。
咲子は泰葉を抱きしめようとしたところで、少し後ろに杏寿郎がいることに気がついた。
咲「まぁ、煉獄様もご一緒で!」
杏「はい!ご報告したいこともありまして!」
杏寿郎の様子に、大体のことを察した咲子は嬉しそうに微笑む。
咲「では、ゆっくり話を聞きたいわ。
さぁさぁ、上がって。お茶淹れるから。」
咲子が台所に向かい、泰葉と杏寿郎は居間に向かった。
居間には咲子の夫、信明が座っていた。
信「おぉ。二人ともいらっしゃい。
泰葉ちゃんだけかと思っていたが、煉獄様もご一緒で。」
杏「私は少し話をしたら帰ります!それと、私のことは杏寿郎で構いません。」
杏寿郎が困ったように笑う。
信明は少し迷ったような顔をしたが、杏寿郎くんと呼ぶようにした。
そこに茶を持ってきた咲子が現れ、座るよう促される。
咲「お茶をどうぞ。二人とも、芋羊羹は好きかしら?美味しいのをいただいたのよ。」
「ありがとう。杏寿郎さんも、さつまいもが大好きなのよ。」
咲「あら!そうなの?じゃぁ、たくさん召し上がってね。」
杏「そう言われると、なんだか恥ずかしいが…。ありがとうございます!遠慮なくいただきます!」
しばらく、美味しい芋羊羹とお茶をいただき、ごくんと飲み込んだ辺りで咲子が切り出した。
咲「それで?話したいことって何なのかしら?」
口元が緩むのが隠しきれていない咲子を見て、泰葉は身体中が熱くなった。
「あ、あのね。私たち…こ、婚約をしまして…」
杏「近々、結納を済ませ、夫婦となります!!!」
杏寿郎の気合いの入った宣言により、部屋の窓がビリビリと響いた。
咲子と信明はびっくりしたものの、ふふっと笑みを零す。
信「その意気込みがあれば、君たちは幸せになれるだろう。
おめでとう。」
咲「おめでとう。トントン拍子でことが進んで本当に良かったわ。」
温かな祝福の言葉に、泰葉も杏寿郎も嬉しくなる。
『ありがとうございます!!』
二人の声が気持ちいいほどに重なった。