第58章 逢瀬
しかし、周りの視線が気になるのは杏寿郎も同じ。
男たちの視線は泰葉に向かっている。
杏寿郎は、そんな男たちに視線を向けて牽制する。
彼女には自分がいることを目だけで思い知らせてやる。
杏「泰葉さん、決して他の男について行ってはいけないぞ!」
「杏寿郎さんも、女性について行かないでくださいね。」
少しムッとしながら泰葉は返す。
杏寿郎は泰葉の声色から、面白くない様子だと察して慌てて表情を覗き込む。
すると、少し膨れっ面。
杏「よもや…、まさか泰葉さんも妬いてくれているのか?」
「…はい⁉︎」
急に顔を覗き込んで来たかと思えば、「妬いているのか」と言われる。
しかし、無意識に膨れっ面をしていた泰葉には、その自覚はなく、その言葉に驚くばかりだった。
杏「…違ったか?」
「妬いてなんていませんよ!ただ、皆さん杏寿郎さんのことを見すぎだなとは思いますけど。」
杏(…それを妬いているというのではなかろうか?)
泰葉はいつも杏寿郎が妬いているのには気づくのに、どうして自分の気持ちには気づかないのか、謎でしかなかった。
そんなこんなで、なんとか街の外れまでやってきた。
ここまでくれば咲子の家までもう少し。