第7章 満月
まさか杏寿郎が炎柱だったとは…
失礼な事をしたな…
煉獄家も笑顔になって良かった。
…槇寿郎さんと、私は会ったことがあると言っていた。
おそらく12歳より前のことだろう。
何も、思い出せない。
あの日のことも思い出したいのに…。
考えていると、のぼせそうなので泰葉は上がることにした。
泰葉は借りた客人用の浴衣に着替える。
胸元を隠すようにキュッと閉める。
泰葉は自分の胸が嫌いだった。
平均よりは大きい方だとは自覚している。
18の頃、路地裏に連れ込まれ知らない男に胸を触られたことがある。
理由は、
『触ってくれとばかりに、主張する胸があるから』
理解ができない理由だった。
気持ち悪かった。
その時は育ての父が、見つけてくれ
男を殴ってくれた。
それから自分の胸が嫌いで、サラシで少しでも小さく見えるようにと締めていた。
しかし、眠る時は苦しいのでサラシは巻きたくない。
「羽織を着ていれば大丈夫よね」
そうして、泰葉は部屋へ戻ることにした。
部屋に着く頃、中庭に面した廊下に座る杏寿郎がいた。
「杏寿郎さん、お先にお風呂をいただき、ありがとうございました。」
杏「上がったか!
それでは父上に伝えてこよう!」
そう言って槇寿郎の部屋へと向かっていった。
泰葉は客室に入り、手ぬぐいで髪を乾かした。
肩くらいの長さなので、乾くのにも時間はかからない。
すると、戻ってきたのか、杏寿郎が声をかける。
杏「泰葉さん、もう眠ってしまうか?
今宵は満月なんだ!」
泰葉は襖を開けた。
しかし、そこには杏寿郎の姿はない。
あれ…?と、キョロキョロしても、見当たらないので、とりあえず廊下に出る。
空を見ると
立派な満月が出ていた。
「綺麗…」
そう呟いたとき、近くに杏寿郎がいることに気づいた。
どうやらお茶を淹れてきてくれたようだ。
杏「冷えるといけないので、温かい茶を淹れてきた!」
ニッと笑う顔が、夜なのに眩しいくらいだった。
二人は並んで廊下に腰掛ける。
杏寿郎は月を見上げながら、お茶を啜った。