第57章 大輪菊
「いいえ!私ばかり幸せをいただいていてはいけません!
杏寿郎さんにも幸せになっていただかないと!!」
むんっ!と気合いを入れる泰葉。
そして、妻を幸せにするのが夫の務め!と引かない杏寿郎。
すると、槇寿郎が困ったように口を開いた。
槇「互いに相手を幸せにしようと思う事は結構だが、まずは自分が幸せだと感じなければ、人を幸せにする事はできない。」
槇「とりあえず、毎日怪我なく元気に過ごすことを心がけなさい。」
まるで子供に話すような事であるが、これは愛する瑠火を病気で失った槇寿郎だから重みを感じる。
命無くしては…。
『…はい。』
2人は槇寿郎の意図を理解し、互いに見合わせると静かに返事をした。
千「さぁ、お線香にも火がつきましたよ。」
千寿郎が線香に火を移してくれ、その束を4等分する。
槇寿郎、杏寿郎、千寿郎、泰葉の順で線香を供えると、静かに手を合わせる。
「煉獄家のご先祖様、瑠火様…どうぞよろしくお願い致します。」
ポツリと泰葉がそう呟いた時、
ふわっと暖かな風が吹いた。
そして、
——…り…ちりん…
泰葉はハッと顔を上げる。
(…風鈴?)
キョロキョロと辺りを見ても風鈴もなければ、そのような音がするものもない。
近所の家かとも思ったが、広い墓地のため聞こえるはずもない。
杏寿郎達は…と見てみると、3人は放心状態のようだった。
槇寿郎に関しては目に涙が溜まっているように見える。
「あ、あの…」
泰葉が声をかけると、3人は我に帰る。
杏「あ、あぁ…すまない。」
千「母上…」
槇「瑠火も喜んでいるようだ…。」
少し鼻をスンッと鳴らし、槇寿郎は墓石を見つめた。