第57章 大輪菊
槇「泰葉さんをもっと早く連れてきてやりたかったが、すまないな。」
「いえ、なかなかたくさんの出来事が立て込んでましたからね。」
仏壇には毎日手を合わせているものの、墓には赴くことができずにいたことは、ずっと泰葉の胸にも引っかかっていた。
だから今日はこうして行けることを、言い方がおかしいかもしれないが楽しみにしていたのだ。
「瑠火様にも、全てが終わったことをご報告しなくてはなりませんね。」
杏「あぁ。母上も喜んでおられるだろう!鬼もいない平和な世になり、この様な可愛らしい娘ができるのだからな!」
ニッと笑いながら泰葉の腰に手を回す杏寿郎。
やはり、この恥ずかしいことをさらっと言われるのには、どうしても慣れない。
「もうっ、そんなことを…」
大きな声で言わないでと言おうとした時、千寿郎がポツリと疑問を呟いた。
千「泰葉さんが正式にお嫁さんになったならば、義姉上と呼んだ方が良いですか?」
確かに立場上は義姉に当たるのでそう呼ばれるのが普通なのかもしれないが、なんとなくこそばゆい。
「んー、千寿郎くんの呼びたい様で構わないけれど…。
私的には今まで通りの方が嬉しいかな。」
そう伝えると、んー…と悩みだす千寿郎。
しばらく黙っていると、ポンと両手を合わせた。
千「僕は正直、どちらとも呼びたいのです。義姉上とも呼びたいし、今まで通り泰葉さんとも呼びたい。
…なので使い分けようと思います。」
女兄弟がいなかった為、やっぱり憧れがある様だ。
千寿郎は自分の中で納得した様にうんうんと嬉しそうに頷いている。
まぁ、千寿郎がそうしたいなら、こちらとしても断る理由はない。
そんな義弟の姿を見ながら微笑ましく思った。