第57章 大輪菊
朝食を済ませ、泰葉は井戸の水にさらしていた花達を上げて、縁側で長さを揃える。
葉を落としたり、飾った時の具合がいい様に切り落としたりしていた。
〜♪
鼻歌を歌っていると、背後に気配を感じる。
杏「随分と機嫌が良いのだな。」
杏寿郎だ。
泰葉の隣に腰掛け、切り揃えられた花を手にしていろんな角度から見ている。
「ええ。今日はすでに嬉しいことが沢山あって。」
微笑みながらパチンパチンと花の茎を切っていく。
杏「ほう。どんな良いことだったか聞いても?」
「ふふ、一つは瑠火様に漸くご挨拶ができること。
二つ目は杏寿郎さんが今持っている、大輪菊がとても綺麗なこと。煉獄家にぴったりな色だと思わない?瑠火様の瞳の色は、この中心の様に綺麗な赤色みたいだし。」
杏「ふむ。確かに!」
杏寿郎は頷きながら菊を眺める。
「それとね、三つ目は…花屋さんに"若奥様“って呼ばれちゃった。」
少し照れながら話すと、杏寿郎の口元はみるみるうちに緩んでいく。
杏「若奥様か…。そうか、泰葉さんは確かにそう呼ばれてもおかしくないな!」
「へへ。ちょっと照れ臭かったけど…嬉しかった。」
はにかんだ表情でそう話す泰葉がどれほど愛おしいか。
今日の予定が未定ならば、今すぐ離れに抱き抱えて行きたいくらいだ。
杏「…今日ばかりは墓参りの予定が恨めしくなるな…」
ポツリと漏らす杏寿郎に「え?」と首を傾げるが「いや…」と笑って濁された。
そして泰葉は杏寿郎に手伝ってもらいながら、お供え用の花束を用意を進めた。
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