第57章 大輪菊
翌日、煉獄家3人と泰葉は町外れに向かって歩いていた。
泰葉の手には橙がかった赤の大輪菊を中心に纏められた花束が抱えられている。
杏「やはりその大輪は色鮮やかで美しいな!」
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今日の朝早く、煉獄家に花屋の男性店主が訪れていた。
『ごめんください』
千寿郎が出ると、籠に沢山の花を詰めて花屋が笑顔で会釈する。
『昨日、こちらの若奥様に頼まれまして。
綺麗な大輪菊が入りましたので、早くお届けしたく伺いました。』
千「若奥様…、泰葉さんが頼んでくださったのですね。
分かりました。わざわざありがとうございます。
あの…お代は?」
そんなことを話していると、泰葉が2人の元にやってきた。
「千寿郎くん、どう…あっ!」
ぱあっと表情を明るくさせて花屋の抱えた籠を見つめる。
「もしかして、これ…」
『はい、良い色の大輪菊です。』
「煉獄家にぴったりな色!!ありがとうございます。」
満面の笑みを浮かべた泰葉にぽっと頬を赤らめる花屋。
『若奥様が独り身でしたら、息子のお嫁さんに来ていただきたいくらいですね。
こんなに花を咲かせたような笑顔の女性は中々いませんよ。』
花屋はそう言いながら泰葉に花が詰まった籠を手渡す。
花屋の言葉に泰葉の顔もみるみるうちに赤くなった。
「わ、若奥様…!!」
『あれ、違いましたか?娘さん?
ならば、うちの息子に…』
千「も、申し訳ありません、こちらの方は兄の婚約者でしてっ!」
千寿郎が慌てて泰葉と花屋の間に割って入る。
『おやおや、そうでしたか。
それは失礼致しました。…では、また何かあればよろしくお願い致します。』
そう頭を下げて、にこやかに花屋は帰っていった。
「わ、私…今若奥様って…。」
籠を抱えて呆けている泰葉に千寿郎は眉を下げ籠を受け取る。
千「そうですよ。慣れないといけないですね、若奥様。」
少し悪戯気に笑う千寿郎。
泰葉は千寿郎の言葉にハッとして、「もう!」
と小突きあいながら家に入った。