第56章 残暑と秋
「んー!あまーい!」
蜜「ほんとー!とっても美味しいわぁ!」
杏「うん!うまい!!」
シャクシャクと西瓜を食べる音が響く。
美味しそうに食べる姿を見て、実弥は満足そうだ。
杏寿郎の隣に座る泰葉を挟む様にして、実弥は腰掛ける。
「美味しい西瓜をありがとうございます。まだこんなに甘い西瓜があったんですね。」
季節もあっという間に秋が顔を覗かせている。だいたいこの時期の西瓜はもう味が薄くなってしまうのが多いが、今食べているのはとても甘い。
実「あぁ、それは少し遅成りのやつだからなァ。」
実弥もガブっと西瓜に齧り付いた。
シャクシャクと音を立てながら、確かに甘いと手にした西瓜を見た。
実「知り合いの爺さんが育ててるんだけどよォ。
毎年沢山分けてくれるんだよ。」
実弥が西瓜好きだとは気が付かなかった。
そのたくさんの西瓜は自分で消費していたのだろうか。
そう思っていると、杏寿郎が隣でふっと笑った。
「…?」
何で笑ったの?と、聞こうとすると、目の前に行冥が現れた。
行「それで毎年私の屋敷前に西瓜が置かれていたのだな?」
実「あ゛ーーー…」
行冥の言葉にガシガシと頭を掻く実弥。
西瓜好きなのは、どうやら実弥ではないのか。
行冥と共にあの屋敷にいたのは…
「玄弥くんの…好物?」
実「…まあなァ。」
実弥は少しバツの悪そうな顔をしながら頷いた。
弟はいないと言っておきながら、弟の好物を差し入れていたなんて。
玄弥は気づいていたのだろうか。
「弟思いですね。」
実「そ、そんなんじゃねェよ。」
照れ臭そうにまた西瓜に齧り付く実弥。
素直じゃないな、と微笑ましく思った。
杏「して、もう不死川達は兄弟揃って暮らしているのだろう?」
実「あぁ。もうあいつを拒否する理由も無くなったし、今まで何もしてやれなかった分なァ。」
これからは兄弟仲睦まじく過ごしていって欲しい。
「命をかけて戦っていた者だからこそ、そのかけがえのない幸せを大切にできる。」
泰葉がそうポツリと呟くと、杏寿郎と実弥は泰葉を見た。
そして、柔らかく微笑んで「そうだな…」と声を揃えた。