第56章 残暑と秋
し「自分の声に向かって、可愛い女の子がちょこちょこと来てくれる姿。とても良いですよ。幼子が来てくれるような愛しさが湧きます。」
よしよしと泰葉の頭を撫でるしのぶ。
「えっ、しのぶさん、西瓜じゃなかったの?」
蜜「じゃ、今度は私が呼ぶから、その方に来てくれる?」
「蜜璃ちゃ…あの、西瓜…」
天「ちっ、そういう事かよ!」
実「よぉし、やってやらァ…。」
無「泰葉、ほらこっちだよ。こっちに西瓜も僕もいる。」
義「泰葉、こっちだ。」
杏「むぅ⁉︎君たち何を考えているんだ!俺の婚約者だぞ!泰葉!こっちだ!こっちにおいで!!」
急に色々な方向から声がするようになり、キョロキョロと戸惑う泰葉。
「あ、あの…西瓜はどこですか?」
『こっちだ!!』
四方八方から聞こえる指示に困り果てる泰葉。
この騒ぎ様には槇寿郎や、千寿郎、行冥、小芭内もお手上げだった。
行「可哀想に…」
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泰葉は疲れ果てていた。
結局、それぞれが全く西瓜関係なく呼びつけ、泰葉が自分の元に来るのを楽しんでいた。
多分ひとしきり皆に抱きしめられた様に思う。
「す、西瓜…本当にあるんですか?」
もう嫌になってきた泰葉。
周りも流石に申し訳ない気持ちになった。
し「泰葉さん、ごめんなさいね。
あと4歩、前に出ると西瓜がありますよ。」
(4歩⁉︎たった4歩前に行くだけで西瓜があるっていうの⁉︎)
今までの苦労は何だったんだと疑問が生じる。
ただ私で楽しんでいただけなんじゃないか?
そう思いながら4歩前に出て、木刀を前の下に彷徨わせると、コツンと本当に当たるものがあった。
「あった!これだっ!」
ようやく会えた西瓜!
千「さぁ!泰葉さん、思い切り!」
「うん!」
大きく木刀を振り上げ
「えいっ!!!!」
ぶんっと振り下ろす。
サクッ
「やっ、やったぁ!」
西瓜が割れた!
そう思って目隠しを取ると、
「あ…れ?」
まだ目が光に馴染んでいないからか、西瓜が見えない。