第56章 残暑と秋
「おはよう!千寿郎くんっ!」
元気に挨拶しながら台所に入っていくと…
「って、あれ⁉︎しのぶさんと蜜璃ちゃん⁉︎」
し「おはよう、泰葉さん。」
蜜「泰葉ちゃん、おはよっ!!」
千「おはようございます。まだ寝ててくださいと言っても聞いてくださらなくて…」
困ったように笑う千寿郎。
しのぶは味噌汁の具材を、蜜璃はご飯を炊いていた。
「2人とも早起きね。眠れなかった?」
慣れない場所で気を遣ってくれているのでは…と心配する。
だが、2人はぶんぶんと首を振った。
し「いいえ。むしろよく眠れすぎて早く起きてしまったんです。
患者さんも鬼も気にせずに、こんなに眠ったのはいつぶりでしょうか。」
蜜「私もねっ、すっごくよく眠れたのよ?でもね、あの…お腹が空いちゃって…」
えへっと笑う蜜璃。今度泊まりにきたときは夜食も用意しておいてあげよう。
「眠れたのなら良かった…。
それじゃ、私はだし巻き卵でも焼こうかな。」
千寿郎は魚を焼く用意をしていたので、泰葉はだし巻き卵の用意をする。
卵は何個割れば良いだろうか…。
「ごめん、千寿郎くん。卵あるだけ使っちゃった。」
蜜璃と杏寿郎の食べる量を考えると、卵15個を消費してしまった。
昨日のカツ丼でも使ったので、あるだけ全部となったのだ。
千「分かりました、大丈夫ですよ。
今日の午後、卵屋さんがちょうど届けにきてくれますから。」
そんことを話しながら朝食を作っていくと、匂いに誘われて、男性陣も起きてきた。
実「美味そうな匂いがすんなァ。」
天「腹減ったー」
「皆さん、おはようございます。」
挨拶をして準備しようと居間へ向かう。
「…っわ!」
居間にはまだ誰もいないと思っていたら、槇寿郎が座っていた。
新聞を広げて読んでいたが、気配も全く感じなかった。
「おはようございます、槇寿郎様…いつからこちらに?」
槇「おはよう。泰葉さんが起きてきてくる…少し前か。」
…そんなに前からいたとは…。
「すみません、お茶も出さずに…。」
槇「気にするな、茶くらい飲みたくなれば自分で入れられるさ。」
そう笑う槇寿郎に、煉獄家の人間が皆心広くて良かったと思う。
もし、他の屋敷に嫁に行ってこんなようでは、毎日怒鳴られてしまうだろう。