第56章 残暑と秋
そう思いながら泰葉は茶を淹れ、槇寿郎の前にコトッと置いた。
槇「すまんな、…うん。泰葉さんの茶は美味い。」
「ありがとうございます。そう言っていただけるのが嬉しいので、私にも淹れさせてくださいね。」
槇「あぁ、任せよう。」
穏やかな空気が流れる朝。
すると「あー!」と蜜璃の声が上がる。
泰葉がその声の方に向かうと、蜜璃が驚愕した顔で天元を見上げている。
「どうしたの?」
慌てて尋ねると、蜜璃は天元を指さした。
その天元の口は、モグモグと動いている。
あぁ…なんとなく察しがついた。
蜜「私、私…とっても我慢していたのにっ」
うるうると目を潤ませる蜜璃。
天「味見だよ、味見。」
「宇髄さん、味見は結構ですが、蜜璃ちゃんの気持ちも考えてくださいね。
お腹空かせてる中、頑張ってこんなに沢山作ってくれたんですから。」
蜜「私だって…泰葉ちゃんのだし巻き卵…食べたいのにっ…」
お願いだから、宇髄さん謝ってくれないかな…。
じゃないと…ほら。
天元の後ろから、ズモモモモ…と効果音がなりそうなくらい、澱んだ空気が漂い始めた。
その空気を感じとり、天元は「あ…」と後悔することになった。
小「宇髄…貴様、甘露寺を泣かせたな?その罪の重さは承知の上か?甘露寺がどれだけ腹を空かせたのを我慢して…」
ネチネチと小芭内の蜜璃への惚気を交えた説教が始まった。
「だから言ったのに。」
これ、始まると長いのよね…。
泰葉と周囲は苦笑いしながら、食事の用意を居間へと運んだ。
ところで…
杏寿郎の姿が見当たらない。
「杏寿郎さん、どこに行ったのかしら?」
無「今、庭で桶に水を溜めてる。」
「水?」
何故、水を?と思っていると、急にピタッと冷たい感覚が両頬に当てられた。
「ひゃっ!!」
急に触られたことと、冷たさに軽く悲鳴をあげる。
杏「どうだ?中々に水が冷たくなってきた。まだまだ残暑残るが、秋も顔を出し始めたようだ!!」