第55章 愛の形 ❇︎
杏寿郎はその口付けにさえ、すこし乱暴さを感じたが、次第に柔らかな口付けに変わっていた。
そして、泰葉の目尻に水滴が落ちる。
少し温かな水滴は、泰葉のものではない。
杏寿郎のものだ。
泰葉が杏寿郎を見ると、その目はいつもの杏寿郎の太陽のような瞳。
しかし、そこには涙が溜まっていた。
何度も音を立てて落とされる口付けは、優しいものだった。
「おかえり、杏寿郎さん。」
杏寿郎は意識を戻し、自分のしてしまったことを悔いているようだ。
杏「すまない…泰葉さん。こんな…こんなことを…」
「大丈夫。私もちゃんと受け止めようって決めたことだから。
…今からは優しく抱いてくれますか?」
後悔しても、昂りは衰えず泰葉のナカに入ったまま。
杏「あぁ、もちろん。」
それからは、とても優しく、愛情を感じられる快感に変わっていく。
既に限界近くになっていたこともあり、時間としてはそれほど長くはなかったが、時間的には長かった乱暴なものより、短時間でも愛を感じる方が何倍も充実感を感じられた。
杏寿郎と泰葉がどちらとも果てた時、杏寿郎は泰葉を抱きしめた。
杏「怖かっただろう…。まさか、泰葉さんにこんなことをしてしまうとは…。
他に何か傷つけたりはしなかっただろうか…?」
「大丈夫。」
泰葉がそう笑うも心配だと、杏寿郎は湯を貼り直し、泰葉を湯船に連れて行き、灯のついた下で全身を見た。
実際、首には締められた跡があったのだが、まだ残った治癒力で杏寿郎が見る頃には綺麗に消えていた。
杏「あぁ、本当にすまなかった…」
「大丈夫。早く解放されると良いわね。」
杏「うむ…。」
だが、幸いにこの日以来、これ程までに苦しむことがなくなった。