第53章 予想外
泰葉が2人を確認しようとした時、何故だか周囲から痛いほどの視線を感じた。
『…………。』
「…………?」
泰葉が首傾げると、意外にも口を開いたのは行冥。
行「……本当にこの技に入ったのか?」
杏寿郎を助けたのは、この煉獄を繰り出した時。
「は、はい…」
遠慮がちに泰葉が頷くと、ポカンと口を開けて驚く顔が並んでいた。
千「…もう無いとは思いますが…、今後は絶対にやめてくださいね。」
千寿郎が泣きそうな顔で泰葉に頼む。
「えっ、何、何⁉︎なんで泣きそうなの?
分かった、分かったよ!入らないよ!」
実「これに入ったら間違いなく死ぬぜェ。」
実弥が呟くとうんうんと皆頷いた。
そして、気になる結果は…
2人とも、向かい合い立っている。
木刀も握られたまま。
「…勝負は…つかなかったの…?」
皆の視線を集める2人は大きく肩で息をしながら、ニッと笑った。
その時、カラン……と木刀の転がる音がする。
そして、トサッと膝をついたのは
槇寿郎だった。
泰葉が慌てて駆けつけようとした時、千寿郎はそれを制した。
千「父は大丈夫です。」
ニコッと笑うと、視線を2人に移す。
泰葉もそれに釣られて視線の先を見ると、杏寿郎が槇寿郎の元へ行き、手を差し伸べているところだった。
互いの健闘を称え合う、それが手合わせの礼儀だ。
柱達はもちろん、千寿郎も心得ていた。
「あ…」
知らなかったのは自分だけかと、しゅんとする泰葉の背中に千寿郎の手が添えられる。
千「挨拶が済んだら、ぜひ声をかけてあげてください。」
そう言って前を見る千寿郎。
千「杏寿郎、一本!よって勝者、杏寿郎!!」