第53章 予想外
「え…、は、はい。」
そう言われて杏寿郎をみると、確かにホックが外れていた。
その様子を見て千寿郎は苦笑する。
泰葉が杏寿郎の方を向くと、杏寿郎も屈んで首元を突き出した。
同じように首元に手を伸ばす。
プチ、プチと止めていく間じ…っと見つめられている。
「き、杏寿郎さん…そんなに見られてはやりづらいわ…」
泰葉が戸惑い気味に訴えるが杏寿郎は目を逸らさない。
なんとかホックをつけ「終わりましたよ」と胸元をトントンと軽く叩く。
杏「愛い!!!」
急に大声で叫び出すので、泰葉達はビクッと跳ねた。
杏「泰葉さんの愛らしい顔を、父上だけが眺めるのが狡く思ってしまった!!」
つまりは父に向けてのヤキモチ。
意外と杏寿郎はヤキモチ焼きだ。
槇「千、杏寿郎の襟元は開いていたか?」
槇寿郎が千寿郎に、はて?と確認する。
千「いいえ、キッチリ閉めていました。兄上は今まで自分で閉められていましたから。」
その答えを聞いて、槇寿郎もまさか自分に嫉妬されていたと苦笑いする。
槇「杏寿郎、悪かった。俺はいつも瑠火に閉めてもらっていたから、つい癖でな。
いくらなんでも息子の恋人に手を出すつもりはないぞ。」
一応言っておくが…と詫びを入れる槇寿郎。
すると、杏寿郎はカッと目を見開いて振り返った。
杏「何を言っていますか父上!!そのような気持ちがあったら困ります!!」
その反応に、周囲は
あぁ…もう何を言ってもダメだ…
と悟ったのであった。