第53章 予想外
翌日朝7時。
朝食を済ませ、杏寿郎と槇寿郎は手合わせのため自室にて着替えをしている。
食器を片しながら、泰葉と千寿郎もそわそわしていた。
負ければ許しをもらえない…
もちろんそれもなのだが、今回の戦いは鬼殺隊は解散したとしても
元炎柱
対
現炎柱
の戦いである。
誰もこの戦いが実現するなど思っても見なかっただろう。
それを今日、目の当たりにする。
千寿郎はとても興奮しているようだ。
流石に鬼殺隊でない泰葉にもその重大さは分かっていた。
「槇寿郎様と杏寿郎さんが、戦うなんて最初で最後かな?」
泰葉が千寿郎に声をかける。
真っ直ぐ前を見て力強く頷く千寿郎。
千「軽い手合わせは今後もあるでしょうけど、呼吸を使っての戦いなんて最初で最後だと思います。」
「そっか…。じゃぁ、しっかり見ておかないとね!」
2人が頷き合ったその時。
襖の開く音がした。
振り返ると隊服に炎の羽織を身につけた杏寿郎の姿。
それは2ヶ月ほど前に見納めになったはずの、炎柱の姿だった。
「杏寿郎さん…」
杏「久方ぶりに袖を通したが。やはり本気勝負!だから隊服を着た!」
ニッと口角を上げるが、やはり気分が変わるのだろう、いつもより引き締まった顔をしている。
すると、またスッと襖が開く。
そして、その姿に泰葉と千寿郎は目を見開いた。
それもそのはず。
ゆっくりと部屋から出てきた槇寿朗も隊服を身につけていたからだ。
千「ち、父上!」
「槇寿郎様…」
杏「今後無いであろう真剣勝負!ならばと父上にも着てもらった!」
杏寿郎は非常に満足そうである。
千寿郎は目に涙を溜めていた。
なんせ、千寿郎が物心つく時には隊服を脱いでしまっていたから。
一方で槇寿郎はとても照れ臭そうだった。
槇「流石に…もうこれは…」
「似合っていますよ、槇寿郎様。まさかこのお姿を見られるとは思ってもいなかったので、大変嬉しいです。
杏寿郎さんも、千寿郎くんも…嬉しく思っていますよ。」
そう微笑むと、そうか、と微笑み返す槇寿郎。
そして、スッと前を向く表情には、全てを投げ出した時の姿など微塵も感じない。
泰葉は涙を拭う千寿郎の背中を摩り、杏寿郎達が木刀を品定めしている時…
コンコンと玄関が鳴る。