第53章 予想外
夕飯を終えて千寿郎と片付けも済ませ、今日は疲れもあるからと、早々に各自の自室へと戻っていく。
槇「では、杏寿郎。明日…そうだな、軽く動いてから…9時半でどうだ?」
杏「問題ありません!」
槇「うむ。では、9時半に屋敷の裏の山で行おう。」
杏「承知しました!」
杏寿郎達は明日の時間を合わせ、部屋へと向かった。
杏寿郎の後を歩いていた泰葉は、わざわざ裏山?と思ったが、黙って見守った。
そして、杏寿郎は自室の襖に手をかける。
てっきり離れに来るとばかり思っていた泰葉は驚いて声をかけた。
「き、今日はこちらに?」
その声に杏寿郎も少し驚きながら、振り返る。
杏「よもや!泰葉さんからそう言われるとは!」
そう言って、杏寿郎は柔らかく微笑む。
杏「せっかくのお誘いだが、明日は父との決戦がある。
明日は呼吸を使った戦いだ。それに父も力を戻しつつある。
泰葉さんを堪能するのは、無事に父の許しも得てからにしよう。」
杏寿郎は泰葉に近寄り、すりっと頬を撫でて口付けた。
「泰葉さん、最近特段と綺麗になった。
それは、俺のせいだと嬉しいのだが。…おやすみ。」
甘く囁いて自室へと入っていく杏寿郎。
泰葉は目をパチパチしながら、今の杏寿郎の只ならぬ色気はなんだったのかと頭を働かせた。
(まったく!とんでもない杏寿郎さんだわ!)
泰葉の胸はバクバクと音を立てていた。
それは離れに戻り、湯浴みをしてもなかなか治らず
何故か眠れなくされてしまった。
「もう!なんでいないのに眠れないじゃない!
だ、第一!誘ってたわけじゃないんだから!!」
泰葉の独り言は静かな部屋に響いていた。