第53章 予想外
夕飯は牛肉の時雨煮を作った。
帰り道、お肉屋さんの前を通ると、店主に声をかけられた。
すると、いつものお礼だと、牛肉をくれたのだ。
牛肉は割と高価だ。
流石に悪いとお金を払おうとしたが、それだと礼にならなくなってしまうと断られた。
…というわけで、刀鍛冶の里で食べた味を思い出しながら時雨煮を作った。
まだ残暑残る季節、生姜とねぎを多めに入れる。
疲れと暑さにやられた体でも食欲が湧くように。
杏寿郎と槇寿郎も戻ってきたところでお膳に並べる。
杏「ん?今日はあまり嗅いだことのない匂いがするな!」
流石杏寿郎。気付くのが早い。
「先程いただいた牛肉を、時雨煮にしてみたの。
私が刀鍛冶の里で食べたのを思い出して作ったんだけど…。」
泰葉が小丼によそっていると、そこからヒョイとつまみ食いをする。
すると、ニッと口角が上がり
杏「うまい!!」
と声が上がった。
千「兄上!お行儀が悪いですよ!」
早速千寿郎に叱られる。
それをみて笑いが堪えられなかった。
「杏寿郎さんは、つまみ食いに向いてないわね。
すぐに大きな声で感想を言ってしまうのだから。」
杏「むぅ…こればかりは我慢できないな…。
つまみ食いは千のいないところでしょう!」
千「そういうことじゃありませんよ!兄上!」
『いただきます!!』
皆揃って手を合わせる。
4人で食べる食事も、今では当たり前のようになってきた。
槇「ん…、これはさっきの牛肉か?美味いな。」
杏「うむ!やはり美味い!!これはいくらでもいけるな!」
千「本当に!美味しいです!」
泰葉は皆に褒められて嬉しくなる。
自分でも、割と忠実に再現できたのでは…と思う味だった。
これからもたまには作っていこう。
そう思っていると、杏寿郎は早速ご飯をおかわりする。
蜜璃にも思ったけれど、杏寿郎だって筋肉でがっちりしてはいるが腹や腰回りは意外にも細い。
この食べたものはどこに入っていくのか…
これは永遠の謎だろうなと思った。