第53章 予想外
そんな甘い記憶を思い出しながら外を眺める槇寿郎。
その様子を見て3人は顔を見合わせ微笑んだ。
列車はまたカタンカタン…と心地よい揺れにより、眠気を誘う。
帰りこそはと意気込んでいた千寿朗だったが、いつの間にか舟を漕ぎ始めた。
槇寿郎は千寿郎を自分の肩にもたれさせて、自身も目を閉じた。
次第に2人は、すー…と寝息を立て始め心地よい眠りに落ちていった。
杏「鬼のいるうちはこんなに安心して眠れなかった。
父上も柱を引退してはいたが、一度も熟睡などしたことがないそうだ。酒を飲んでも眠れぬとは…酷だっただろう。」
「杏寿郎さんは…?ちゃんと眠れてる?」
杏「…最近はだいぶ良くなってきた。
特に昨晩はよく眠れたぞ。毎日あのように寝かしつけてもらいたいものだな。」
こそっと囁く杏寿郎。
昨晩とは寝巻きを脱いで抱きしめたまま眠ったのだ。
あんな風に毎日眠ったのでは堪ったもんじゃない。
「あれは、特別です。毎日だと、慣れてしまってなんとも思わなくなるわ。
薬と同じで免疫がついちゃうと思うの。」
泰葉の言葉にしゅんとする杏寿郎。
「だから、あれは特別な日に。
杏寿郎さんが弱った日や、甘えたい時にしてあげます。」
杏「…仕方がない、それで飲むとしよう!」
ニカッと笑う杏寿郎の表情の変化は面白いほどだ。
しかし、この会話を聞いていたのは槇寿郎。
槇(仲の良いのは結構だが、俺たちの前で何を話してるんだ?
起きているのに目を開けづらいじゃないか!!)
じっと寝たフリを続ける槇寿郎だったが…
杏「父上!起きてましたか!!」
「えっ!じゃぁ私たちの話…!!」
槇「な、何も聞いとらん!!」
白々しい槇寿郎の態度に泰葉は恥ずかしくて仕方がなかった。