第52章 恋敵
浩「…しかし、杏寿郎くんって変わってるな。」
「えっ⁉︎彼はいい人よ?」
浩「いや、いい人過ぎるだろ。」
浩介はぽりぽりと頬を掻く。
浩「今回、泰葉に想いを伝えろって言ったの、杏寿郎君なんだ。泰葉がまさか男を連れてくるなんて思ってもいなかった俺は、どこか胡座をかいていたんだと思う。」
「…今まで男っ気が無さすぎたものね…」
うんうんと頷きながら浩介は続ける。
浩「仮にもし泰葉がここにいる間、俺のことを好きだったとかの話なら、話は変わってしまうかもしれない。
それなのに、よく俺に想いを伝えろなんて言えるなって。」
「…そういう事だったの。」
昨日、杏寿郎の様子がおかしかったのは、浩介とこの話をしたからだったのを悟る。
浩「なんか、杏寿郎くんって年下だろ?でも、そんな感じしないよな。
余裕があるっていうか、貫禄があるっていうか。」
貫禄は確かにある。
柱として、自分よりも年上の人たちも纏めてきたのだ。
しかし、余裕と言われるとどうだろうか。
浩介との会話で、泰葉の事を浩介より知らなかったと嘆いていた。
あれは、どう見ても恋愛に悩む21歳の青年そのものだ。
「杏寿郎さんは、自分を魅せるのが上手いから。」
それは自分で押し殺してきた部分なのか、そう見せたいと思っているのか…。
泰葉の表情を見て、浩介はそれ以上言わなかった。
浩「泰葉…」
急に名前を呼んだかと思うと、ふわっと抱きしめる浩介。
「こ、こうちゃ…!!」
浩「幸せになれよ。皆が羨むくらい。
俺も諦めがつくくらい。幸せにな。」
「うん…!!!」
30秒程だろうか。
最初で最後の抱擁。
ドキドキはしない。
安心する気持ちだった。
その安心感に浸っていると、浩介がふふっと笑いだす。
「?」
浩「おやおや、泰葉の旦那様は余裕のある男かと思ったが、
案外そうでもないかもな?」
苦笑いする浩介の視線の先、泰葉が振り返ると
笑顔で額に筋を立てている杏寿郎の姿が見えた。
「あ、あらぁ…これはいけないわね…」
泰葉も苦笑いしながら、そっと身体を離した。