第52章 恋敵
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浩介に連れられて来たのは杏寿郎達から少し離れた場所。
「こうちゃん…どうしたの?」
浩「泰葉、本当に嫁に行くのか?」
浩介の問いかけに頬を染める泰葉。
「うん…。」
浩「ここにいたいとは…思わないのか?」
「久しぶりにここに来ちゃうと、寂しくなっちゃうけど。
だいぶ東京での生活にも慣れたの。沢山のお友達もできたし。」
そう言って笑う泰葉を見ると、なかなか言いたいことが言えなくなってしまう。
浩「泰葉、俺はお前が好きだ。」
「え…?」
浩介の発言に泰葉は固まった。
何と言ったのだろう?理解するのに時間がかかる。
浩「杏寿郎くんとの結婚を諦めてくれ。
ずっとここで一緒に暮らそう。」
「…そう言えたらいいんだが。俺には泰葉の気持ちを無視することはできない。」
浩介は力なく笑う。
浩「俺と再会しても、泰葉の中では俺はその対象では無いのは分かった。
俺には泰葉を彼からは奪えない。」
「だけど、俺にも気持ちがある。だから、まだ杏寿郎くんの嫁になる前に言っておきたかった。
ずっと。ずっと前から泰葉のことが好きだった。
妹の様に接してきたけど、一度も妹としてなんて見たことはない。」
真っ直ぐな瞳。
黒い瞳は揺らぐことなく泰葉を捕らえていた。
「こうちゃん…。」
泰葉は浩介に何と伝えたらいいのか。
「こうちゃん、あのね…私…」
浩「あぁ、分かってるさ。俺は君の兄のようなんだろ?」
浩介の言葉にコクンと頷く泰葉。
今まで、兄のように慕ってきた。
大好きなのには変わりないが、種類が違っている。
浩「それで泰葉が俺のことを変わらず慕ってくれるなら、これからは本格的に兄の気持ちになろう。」
…とは言ったものの。そんなのは無理だ。
今まで恋愛感情で見てきたのに、兄妹愛に変えようなんて。
でも、それでも笑顔を向けてくれるなら…。
それでもいい。
浩介はそう思った。
「…私もこうちゃんの事、大好き。
でも、お兄ちゃんとして。だから、このまま仲良くしたい。」
浩「あぁ。帰った時には必ず声をかけてくれ。会いに行くから。」
「うん。ありがとう。」