第52章 恋敵
泰葉達の元に2人は戻ってきた。
杏「待たせてすまなかった!」
「ううん、大丈夫。」
泰葉は2人の話も終わり仲良くなったかと思ったが…
そうではなさそうだった。
浩「祖父さん、俺向こうの野菜見てくるわ。」
そう言って浩介はその場を去る。
(なんか、さっきよりも2人とも顔が険しい。
初対面のはずなのに、何があったのかしら?)
『…まったく。ほれ、これが秋茄子じゃ。昔から「秋茄子は嫁に食わすな」と言われてっけど、泰葉ちゃん、ややはまだか?』
ややとは赤ちゃんの事だ。
秋茄子は美味しいから嫁に食わすのはもったいない、という意地悪な言葉のほかに、茄子は体を冷やすから、身籠るのを待つ嫁の身には食べさせない方が良いとされている。
「やや…!お爺様、祝言もまだなのよ!それも終わってから、ややは考えます!」
顔を赤くする泰葉。
お爺さんはニコと杏寿郎を見る。
『お兄さんは強そうだから、作る気になればすぐに授かりそうじゃな。』
杏「その強そうとは…どの強そうだろうか。」
ぶわっと更に赤くなる泰葉。
流石に杏寿郎も、頬をぽりぽりと掻いた。
『おぉ、そうだ。あれもやっか。(あれもあげよう)』
お爺さんは一つの木を指差した。
そこには桃の実がなっている。
「わぁ!桃!まだなっているのね!」
『泰葉ちゃんの好物だろう?好きなだけ持っていきなさい。』
嬉しそうにニコニコする泰葉。
杏「泰葉さんは柘榴が好きなんじゃなかったのか?」
杏寿郎が驚いたように言うと、泰葉は柔らかく微笑んだ。
「好物は柘榴のゼリーで、果物では桃です。
この2つでどちらが…と言われると、甲乙つけ難いわ。」
泰葉の言葉に杏寿郎は、まだまだ泰葉のことを浩介よりも知らないのでは…と焦り出した。
そうしている間に、うーん…と手を伸ばす泰葉。
桃の木自体はそんなに高くはないが、実をつけた場所が少し上の方だった。
杏「…俺が取ろう。」
ハッと気がついた杏寿郎は手を伸ばす。
しかし、その手よりも先に桃に手を届かせたのは…
「わっ!」
泰葉の手だった。