第52章 恋敵
杏「私は浩介殿は情けないとは思いません。」
浩「はっ、よせよ。同情などいらないよ。」
同情…か。申し訳ないが同情はできない。
杏「私の家系は、代々炎の呼吸を使い、炎柱を務めてきました。
私も炎柱最後の代にあたります。」
「俺はこの鬼殺隊も、炎柱としての責務も当然のように思って、怖いという感覚も人よりは鈍っていたと思います。
だから、正直最終選別も最初は怖気付いたが、やらねばならぬこととして捉えていました。」
煉獄家は代々鬼狩り。
人とは感覚が違うのかもしれない。
浩「…それで俺の気持ちが分かって堪るか。」
杏「いや!私が思っているのは、身内ではない泰葉さんのために鬼を倒そうと動いたとは、尊敬に値する!」
浩介の眉がピクリと動く。
浩「だけど、命が惜しくてならなかったんだ。
泰葉のことを救えなかった。」
杏「呼吸を習得するまでには、相当な苦労があったはずです。
鬼殺隊の殆どは家族を殺されたり、大切な人を失って入ることが多い。しかし、生きている彼女のために入ろうとしたのは、すごいことだ!」
堂々と褒めてくる杏寿郎に面食らう浩介。
浩「…あんた、本当になんなんだよ!
俺の気持ちに気付いてんだろ?なのに、どうして俺を褒めてんだよ⁉︎」
「それとも、泰葉を手に入れた優越感か⁉︎」
浩介の言葉に杏寿郎は難しい顔をする。
杏「浩介殿、俺はまだ完全に彼女を手に入れていない。
婚約といっても口約束。彼女が心変わればこの関係も終わらせることもできます。」
杏寿郎の目は真剣そのもの。
浩介を揶揄っているはずもない。
杏「もし、あなたがどうしても泰葉さんをと言うのなら、気持ちを伝えたら良い!
それを決めるのは彼女自身。彼女が俺を選ぶか浩介殿を選ぶか、それで気持ちに決着がつくのなら、伝えて欲しい!」
浩「は⁉︎俺に振られろって?」
杏「では、泰葉さんがこのまま浩介殿の気持ちを知らず、妻に娶っても?」
おれは…何を言ってるんだろうな。
本当に彼女が靡いたらどうするのか。
その言葉にグッと唇を噛み締める浩介。
浩「…帰るのはいつだよ?」
杏「明日の昼、12時の列車で。」
浩「…わかった。」
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