第52章 恋敵
『ほほ、そうかいそうかい。それはめでたいね。
泰葉ちゃんは、こんなめんこいのに男さよんねぇがら』
杏「…ん?」
お爺さんの言葉に今度は杏寿郎が目をパチパチさせた。
その様子に気づいた泰葉。
「あー、今のは『こんなに可愛いのに男は寄り付かないから。』って事よ。自分で言うのも恥ずかしいけれど…。
訛りがあるから、分からないこともあるかも知れない。」
杏「そうか!なるほど!
確かに、こんなに器量良しな人はなかなかいません!
私は幸運でした!」
『お似合いな2人だ。仲良くしなよ。
…んだ!こっちさ茄子あっから、持っていきな!』
お爺さんは杏寿郎を気に入ったらしく、ぐいっと腕を引き自分の畑へと案内し始めた。
泰葉は大好きなお爺さんに杏寿郎が気に入られて、嬉しく思いながらついて行く。
少し歩くと、そこには広い畑が広がっていた。
杏「うむ!これは素晴らしい畑だ!これをお一人で?」
『いやいや、これを1人は無理じゃ。
息子と、孫と一緒に世話しとる。ほれ、あそこに孫が…』
『おーい、浩介(こうすけ)ー!』
お爺さんが呼ぶと、トマト畑と思われるところからひょこっと男性が顔を覗かせた。
歳の頃は25、6だろうか。
「え!あれ、こうちゃん?こうちゃーん!!」
杏(こ、こうちゃん…⁉︎)
杏寿郎の胸がざわざわと騒ぎだす。
泰葉にこうちゃんと呼ばれた浩介という男性は、こちらの存在に気づき、麦わら帽子を取った。
そして、土で茶色になった軍手を外しながらこちらに歩いてくる。
「こうちゃーん!久しぶりー!」
着物の袖が落ちていくのも気にしないくらい大きく手を振る泰葉。
ぴょんぴょんと飛び跳ねて嬉しそうにしている。
浩「泰葉か!久しぶり!」
姿がはっきりしてくると、爽やかな笑顔を見せる浩介。
爽やかさは愛想のいい義勇といったところか。
「こうちゃんもお爺様をお手伝いする様になったのね!」
浩「あぁ。こんなに広い畑だからな。父さんと俺とで手伝ってる。
こっちに戻ってるなんて知らなかったな。分かったら家に行ったのに。」
「ううん、今回は色々予定も入っていたし。
大事な要件もあったから。」
そう言って、もじもじと杏寿郎を見る泰葉。