第52章 恋敵
「また来るね。」
そう告げて、泰葉と杏寿郎は桜並木を後にする。
改めて思うと、とても不思議な場所に桜は咲いていた。
周囲には桜の木はなく、むしろその桜たちを隠すかのように背の高く、葉の多い木々が生い茂っているのだ。
杏「泰葉さんはここで生まれ育ったという事なのか?」
泰葉は11頃までは西ノ宮家で育っていた筈だ。
ならばこの地で…
「うーん…そうなるのよね。
でも、建物もないし人が生活していた土地とは思えない様子に変わってしまったから…、残念ながらそういう懐かしさは感じないの。」
泰葉は少し寂しそうな表情を見せる。
まぁ、生まれ育った場所が姿形を変えていればそう思っても仕方ないだろう。
杏寿郎は泰葉の頭を撫でた。
このなんとも言えない気持ちを慰めてくれているのだと悟り、泰葉も微笑んだ。
畦道を歩いている時、どこからか声が聞こえる。
『おーい、おーい。』
杏「む?どこからか呼ばれている気がするのだが…。」
「確かに…。あっ!」
泰葉の視線の先には1人の老人の姿。
「佐久間家のお爺様だわ!」
泰葉の表情はパッと明るくなる。
タタタ…と走り出す泰葉。
その後を追う杏寿郎。
「お爺様!ご無沙汰しています!!」
会うなり泰葉はそのお爺さんに抱きついていった。
『おっとっと。変わらずじゃなぁ。
やはり泰葉ちゃんじゃった。きっとそうだと思って声をかけたんだよ。』
「嬉しい!お爺様に会えたらいいなと思っていたの。」
『おやおや、それは嬉しいねぇ。
…こちらのお兄さんは?』
お爺さんは杏寿郎を見てにこりと微笑む。
「あ、えと、こちらは、煉獄杏寿郎さん。
その、わ、私の大切な人よ。」
泰葉はもじもじと杏寿郎を紹介する。
あまりこういうのに慣れていないのだろう。
杏寿郎にはその姿さえ愛らしくて堪らなかった。
杏「初めまして!煉獄杏寿郎と申します!
泰葉さんと、婚約をしまして時期に夫婦になります!」
恥ずかしがっている泰葉とは違い、ハキハキと夫婦になります宣言をする杏寿郎。
その勢いに、お爺さんは目をパチパチさせて驚いていた。