第50章 列車の旅
「ねぇ、杏寿郎さん。」
杏「ん?」
「とっても嬉しかった。お父さんに言ってくれた言葉。」
杏「思いの丈を伝えたまでだ。」
「その…もう一度言ってくれない?」
泰葉のお願いに
杏寿郎は目を丸くした。
杏「い、今か?もう少し雰囲気のある時が良かったんだが…。」
「いつも雰囲気のある時はもっと甘いでしょう?」
杏「泰葉さんも言うようになったな。」
列車の中でも槇寿郎に同じような事を言われた。
少しここ最近で生意気になってしまっただろうか。
杏「では、あの子守唄を唄ってくれないか?」
「金魚の?」
杏「あぁ。」
泰葉は杏寿郎の髪を撫でながら、寝かしつけるかのように唄いはじめる。
赤い金魚
なぜなぜ赤い
赤い花を
摘んだから
赤いお日様
なぜなぜ赤い
赤い金魚を
好いたから
杏「そのお日様は俺だと思う。
君を好いて、愛を知って。
泰葉さんを見るたびに
俺は赤く染まっていく。」
「金魚のように揺ら揺ら揺れる心にも。
丸く優しい眼差しにも恋焦がれたんだ。
今こうしていられることが信じられない。」
杏「ずっとそばにいて幸せにしたい。」
「愛してる。」
杏寿郎は寝転んだまま、泰葉の目を見て真っ直ぐに伝えた。
そっと手を伸ばし、泰葉の頬を撫でるとぽたっと雫が落ちてきた。
杏「泰葉さん?」
「嬉しい。想像よりもずっと甘い言葉だったからびっくりしちゃった。」
そう言って涙を指先で拭う。
それをなぞるように、杏寿郎の親指が滑る。
「私も、ずっとそばにいたい。
愛してます。杏寿郎さん。」
杏寿郎は泰葉の後頭部に手を回し、そのまま引き寄せ口づけをした。
一度だけだが、それは熱く
互いの想いを伝え合う様に。