第50章 列車の旅
夜。
泰葉の部屋に2組の布団を敷き、泰葉と杏寿郎はそれぞれ横になる。
「緊張してる?」
杏「明日の手合わせにか?」
「そう。」
杏「負けるつもりはないが…、君の父上はどんな戦い方か分からないからな。
呼吸を使えれば、呼吸によっての戦い方があるから大体は分かるが。」
「…確かに。」
泰葉の頭には実弥との手合わせが思い浮かんだ。
杏寿郎の近距離戦に向いている戦い方と
風の呼吸は遠距離戦に向いている戦い方は全く違う。
あの攻撃を詰めるのはなかなか難しかった。
杏「別の男を考えてるな?」
「別の男って…そういう…わっ!」
杏「で?誰を考えていたんだ?」
杏寿郎はいつの間にか泰葉の布団の方に潜り込んでいた。
腰に腕を回され、耳元で囁かれる。
「不死川様ですよ。柱稽古の時、唯一呼吸で手合わせしていただいたから、その時のことを。」
杏「やっぱり他の男じゃないか。」
「もう、そういう考えてたじゃないんだから。」
その時、杏寿郎の動きが不審なことに気づく。
もぞもぞと身体を寄せて浴衣の帯に手を伸ばしていた。
「今日は…しませんからね?」
杏「…何故だ?」
「いつもの離れじゃないんです。隣には私の両親、反対側には槇寿郎様と千寿郎くん!声が聞こえたらどうするの?
明日顔を見れないわよ!」
杏「むぅ。」
「む、むぅじゃ無い!そんな可愛い顔をしてもダメです!」
杏「声が聞こえなければ良いのだろ?」
「無理無理無理!」
杏「手ぬぐいを咥えて「しません!!」
「明日に備えて寝てください!」
杏「仕方ない。」
若干不貞腐れ気味に自分の布団に戻っていく杏寿郎。
少し可哀想に思ったが、声を抑える自信もない。
向こうに戻ったら甘やかしてあげよう。
そう思う泰葉だった。