第6章 再会
「貴方様は、頑張りすぎてしまったのですね。」
槇寿郎は泰葉を見る。
今まで
『大変だね』『しっかりしろ』『もっと頑張れ』
ばかりだった。
正直、槇寿郎には精一杯だった。
そのうち
『子供たちが可哀想』『何をしているんだ』
という言葉に変わった。
槇寿郎は何を言われても構わないが、息子たちにも言葉が向かうのは避けたかった。
しかし、もうどうしていいのか、分からなくなってしまっていた。
『頑張った』
いや、『頑張りすぎた』と言われたのは、初めてだった。
「一人で全部背負い込んでしまったのですね。」
その言葉がストンと落ちてきた。
「酒に逃げたとおっしゃいましたが、
私はそうは思いません。
誇りを命懸けで守ってきたのに、
それが崩れた時は、
きっと想像できない程の絶望だったでしょう。
そこに最愛の方の死。
私だったら、生きていられないかもしれません。
貴方には底知れぬ優しさがあるから、
お酒に頼ることで済んだ。
愛する息子たちのために、
こうして生きている。
それで十分だと思います。
生きていれば、命あれば
息子たちと、会話はできます。
謝ることもできます。
過去をやり直せはしませんが、
これからを築いていくことができます。」
泰葉は、槇寿郎の手をそっと握った。
「貴方には素晴らしい家族がいるのです。
もう彼らだって、思っている程子供ではないと思いますよ?」
だから、どうか。
どうか…
背負いすぎてる苦しみを、
これからの楽しみを
みんなで分かち合ってほしい。
「何があっても、
素晴らしい心を持つ御子息の親は
素晴らしい優しさを持った
貴方しか居ないのです。」
槇寿郎は、静かに泣いた。
泰葉に握られていない方の手で
目元を隠しながら。
ポロポロと溢れる泰葉の涙は
泰葉の頬、顎を通って
槇寿郎の手の甲に落ちた。
涙はじわじわと染み込んでいく。
そして槇寿郎は感じた。
温かなものが、血管を通して身体中を巡っていく。
槇寿郎は、酒は強い方ではあったが
ヤケ酒のような飲み方を長い間続けてしまっていた為、ガタがき始めていた。