第50章 列車の旅
「んーっ!!」
列車を降りて泰葉達は座ったままで固まった体を伸ばす。
千「うわー!とても綺麗な場所ですね!」
降り立った駅の周りを見ると、一面田畑が広がっている。
空も青々として白い雲が漂う風情あふれる場所だった。
杏「これはすごいな!
ここまで足を運んだのは初めてだ!」
「そうでしょう!空気もとっても美味しいのよ!」
泰葉も久しぶりに帰ったからか、心が浮き足立っている。
「さ、とりあえず、駅を出ましょう!」
駅の外へと歩き出そうとすると、ひょいと肩が軽くなる。
なんだろう?と思い振り返ると、背負っていた荷物は杏寿郎の腕に収まっていた。
杏「さ、案内してくれるか?」
重いだろうと泰葉の荷物を持ってくれたのだ。
これを紳士的、というのだろうなと泰葉は感心した。
「ありがとう、ございます。」
杏「…いや、気にするな!」
ぽっと頬を染め礼を言うと、杏寿郎には十分褒美となった。
駅員に乗車券を渡し、駅を出ると駅の中で見た時よりもずっと広い緑が広がっていた。
智「泰葉!」
「お父さん!ただいま!」
駅の外に智幸が待っていた。
智幸達の家はここよりも東の方にあり、距離もあるため自動車で迎えに来ていたのだ。
槇「自動車をお持ちで。
これはすごいですな。」
智「ありがとうございます。
しかし、ここは田舎なため、都会のように交通手段が少ないのですよ。
私のように出回る仕事の者はこれが無いと、どうも不便でしてね。」
智幸の仕事は貿易商。
…と言っても船に乗ったりはせず、事務作業や商業者に売り込みに行ったりとする。
智「さ、お乗りください。」
槇寿郎が助手席に。
杏寿郎と千寿郎に挟まれるようにして泰葉は座った。
あまり狭く無い筈の車なのだが…体格の良い杏寿郎と乗ればやはり若干窮屈だった。
千寿郎が少し窓側に寄り、出来るだけゆとりを持たせる。
千「泰葉さん、もう少しこちらに来ても大丈夫ですよ。」
「あ、ありがとう。」
ニコッと微笑み千寿郎の方に寄ろうとすると
グッ…
泰葉の腰に杏寿郎の手が回る。
「⁉︎」
この手は?と視線で問いかけると「離れてしまうのか?」と視線で返ってくる。
その様子に千寿郎も気づき、はぁと息を吐いた。