第50章 列車の旅
槇「今になって泰葉さんの一族のことを考えると、
特殊な能力故、公言できなかったのだろう。
これは憶測に過ぎないが
10歳くらいには許婚を決めると言っていたな?
おそらくそれは一族の長などが決めるのだろう。
そして、俺は紀彦殿からすると恩人に当たる身。
俺たちが嫁に欲しいと言えば一族の問題となる。
だから、俺たちには娘だと言えなかったのだろう。」
「…そうだったのですか。」
泰葉は楽しい瑠火との思い出が聞けると思っていたが、自分のせいで気まずくさせてしまったのだと、昔の自分を悔いた。
槇「いや、泰葉さん、気を落とさないでくれ。その時はそう思っていた自分たちも浅はかだったんだ。」
「それに、どうやら瑠火の願いは叶っている。
杏寿郎と泰葉さんを会わせたいと思っていたのだから。」
「それは…お話の流れで…」
槇「いや、瑠火はそのあと個人的に君の様子を見ていたんだ。
その時に、縁側の水鉢に泳ぐ金魚に話しかける泰葉さんに心奪われたそうだ。
生き物に優しく出来る人は心の優しい人だと。
いつか杏寿郎にも、会わせたいとな。」
杏「母上も泰葉さんを気に入られていたのか!
君はすごいな!我が家皆から好かれているとは!」
「そんな…嬉しい…。」
杏「このご挨拶の旅から帰ったら、一緒に墓に行かないか?」
「はい。ずっと行きたいと思っていました。」
仏壇にはいつも手を合わせていた泰葉。
しかし、まだ実際の墓に行ったことがない。
本当は、もっと早くに行きたかったが、
大きな戦いがあったり、何かとタイミングが無かった。
槇「そうだな。その時には待ち望んだ嬉しい報告をせねばな。」
千「兄上、頑張って下さい!」
杏「うむ!もちろんだ!」
列車はそんな思い出話にも花を咲かせるように景色を移ろいでいく。