第50章 列車の旅
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約15年前。
槇寿郎と瑠火は2人で列車に揺られていた。
当時5歳の杏寿郎は親戚の家に預け。
東北の地にある西ノ宮家へと向かう。
その時の瑠火の病気には気づいておらず、
寧ろ槇寿郎の方が明日わからぬ命。
2人で行けるうちにと赴いていた。
槇「寒くないか?」
瑠「大丈夫ですよ。槇寿郎さんは心配症ですね。」
槇「何、妻の体を心配するのは夫の役目だろう?」
瑠「そんな優しい夫がいて私は幸せ者でしょうね。」
そんなことを微笑みあって話す2人の時間は何にも変えられぬ、愛しい思い出だ。
西ノ宮家に着いて、紀彦と美智と話している時
1人の少女が襖の影からこちらを覗いていた。
紀「泰葉、どうしたんだい?」
泰葉と呼ばれた少女は、見つかってしまったと言わんばかりの焦りを見せ、ペコリと頭を下げるとどこかへと行ってしまった。
槇「今のは?」
瑠「可愛い女の子でしたね。杏寿郎よりも少し大きいくらいかしら。」
紀「ありがとうございます。
あの子は泰葉と言います。
歳は、間もなく10になりますね。」
槇「杏寿郎は大きい方だからな。」
瑠「いつか、あのような可愛らしい子を連れてくるのでしょうか。」
そんな未来の話に花を咲かせる槇寿郎と瑠火。
美「御子息様は今おいくつで?」
瑠「5歳になりました。」
美「まだまだ、可愛い盛りですわね。」
瑠「娘さんとはいつか会わせられるでしょうか。」
瑠火がそう言った時、2人の表情が曇る。
何か気の触ることを言ってしまったかと、慌てる瑠火を宥めるように紀彦は微笑んだ。
紀「あの子は…娘ではありません。」
槇寿郎達は耳を疑った。
どう見ても2人の子だと思われる少女は娘ではないと。
2人の彼女を見る目も明らかに父と母だった。
しかし、何故そんなことを言ったのか…。
それ以上泰葉の話をすることもできず、
他の話に話題を変えて西ノ宮家を後にした。
瑠「なぜ、娘だと仰らなかったのでしょう。」
槇「きっと深い事情があるのだろう。」
瑠「…でも。自分の子だと言えないのは切ないわ。」
槇「あぁ。2人の顔を見るに、俺たち以上に感じていた。」
そして、2人はまた列車に揺られて帰路についた。
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