第49章 体温 ❇︎
涙を浮かべ、焦点が合いづらくなった目。
紅潮した頬に閉まらぬ口…
欲情を煽るのには十分すぎる素材。
「すまないな…優しくしたいのだが…。
まだ気が済んでいないんだ…!」
そう言って、杏寿郎は今度は自分の快感へと向かって腰を振る。
それは男というよりも、雄としての衝動だった。
「あ!あっ、あっ、ひっ…」
時折苦しそうに喘ぐ泰葉の声を聞きながら、夢中になって打ちつけた。
愛している。
気持ちいい。
その感情のみがぐるぐると回る。
だんだんと杏寿郎の頭もぼんやりと霞む。
あぁ、もう少し
泰葉の嬌声が耳に響く。
「あっ、あっ、く…出るっ、いくぞっ」
「はっ、はっ、あぁ、あぁっ——— 」
泰葉がまた弓形になり、一際高く喘いだ。
またナカはぎゅうっと締め上げ、杏寿郎のモノから搾り出していく。
「く…う…」
杏寿郎は軽く唸り、ぶるっと身震いした。
「あっ…はぁ…はぁ…」
しばらく落ち着くまで待ち、杏寿郎がずるんっと抜き取ると、白濁したものがこぽっと溢れ出る。
「すまないっ、大丈夫か?」
杏寿郎が泰葉を慌ててみる。
「すー…すー…」
そこにはだらんと仰向けで寝息を立てている泰葉の姿。
以前は抱いた後も湯浴みをできるくらいには起きていられた。
「…酷くしてしまったな…」
杏寿郎は申し訳ないと思うのと、愛する人と気持ちがよくなれて幸せだという感情になっていた。
もう鬼は出ない。
こうして衝動に駆られ、酷くしてしまうことも無くなるだろう。
そう思って静かに桶に湯を汲み、手ぬぐいで泰葉の身体を綺麗に清めてやった。
「おやすみ…。」
杏寿郎が頭を撫でると、泰葉がふっと微笑んだように見える。
「きょ……、す…」
杏寿郎はぶわっと赤面する。
はっきりとは聞こえなかったが、泰葉の唇が最後確かに言っていた。
(きょ…とはきっと俺の名だよな。)
『きょ……、すき。』