第49章 体温 ❇︎
「はぁ…すまない…。さ、ここに吐き出して。」
杏寿郎は吐き出した精を流そうと、桶にお湯を汲む。
しかし、泰葉はなかなか吐き出そうとしない。
「ほら、流すから…」
「んくっ…」
吐き出すように促した時、泰葉の喉から嚥下する音が鳴った。
「…よもや、まさか飲み込んでしまったのか?」
「だって…杏寿郎さんから出たものでしょう?
それに…本来なら子供になるかもしれないものだし…
そう思ったら吐き出せなくて…。」
「そうだが、美味くもないだろうに…」
「うん、不思議な味だった。」
頬を赤く染めて照れたように笑う泰葉。
杏寿郎は思わず抱きしめた。
「すまない、今日はどうしても余裕がないんだ…。
今だって、乱暴にしてしまった。」
「大丈夫よ。それは分かってる。
落ち着くまでは、私もそれに応えるつもりよ。
どんなにされても、杏寿郎さんはちゃんと愛してくれてるって分かってるわ。」
「あぁ、なんて優しいのだろう。
でも…そんな事間違えても俺以外に言わないでくれよ?」
「ふふ、誰に言うのよ。」
そう笑い合って、体を軽く洗う。
泰葉が湯船に入ろうかと思った時、パシッと手首を掴まれた。
「その…あとでゆっくり入らないか?」
「布団へ行こう。」
泰葉が頷くのも待たずに、手を引いて風呂場を出ようとする。
まぁ、泰葉も断るつもりも無かったのだが。
杏寿郎はまだ暗い部屋に行き、押し入れから布団を出す。
1組だけ出して、灯籠に灯を灯した。
蝋燭に付けられた揺らめく火が、淡く室内を照らす。
近寄ればぼんやりと互いの裸体を晒し
それだけで嫌に官能的だった。
杏寿郎は布団に座り、「さ。」と左手を伸ばす。
泰葉はその手を右手で取ると、優しく引き寄せられた。
向かい合わせで座れば、2人の顔が柔く照らされた。
「君に良くしてもらったのに…もうこの有様だ。
寧ろ、余計に欲が湧き立ってきてしまった。
困ったものだな。」
杏寿郎は苦笑いをする。
この有様、と聞いて、つい目線を下ろしてしまった。
そして、見るんじゃなかったと思った。
「いいのよ。私でそんな反応をしてくれて…嬉しいわ。」
これは本音。
正直、女性としてちゃんと意識されていると嬉しく思う。