第43章 仇と執念
「テメェ、返しやがれ…」
伊之助の大切な猪の毛皮…。
よほど大切なものなのだろう。
殺気がさらに強まった。
しかし、童磨は伊之助の顔をじっと見ている。
『あれぇ、君の顔見たことがあるぞ。』
そう言うと童磨は自分のこめかみに人差し指を突き立てて、ズブっと差し込んだ。
伊「うぇーー!!何してんだ、キッショオ!!!」
『あー!これだこれだ。
15年前かな?割と最近だね。』
・・・・・・・
童磨の元に17.8くらいの女性が赤ん坊を抱いてきた。
毎日旦那に殴られ、姑にもいじめられ…
自分には親も兄弟もいなくて頼れる所も行くところもない。
童磨のところに来た時は顔が原形も分からないくらい腫れていた。
殴られたせいで片目は失明していたが、手当てをすれば顔は元に戻り、綺麗な人だった。
・・・・・・・・
『同じ顔だよ。君と。
もっと華奢だし、柔らかな表情だけど。』
『これ、君のお母さんでしょ。』
伊「俺に母親なんかいねぇ!!!
俺を育ててくれたのは猪だ!!関係ねぇ!!」
伊之助には母親の記憶が無いに等しかった。
気づけば、我が子のように育ててくれたのは、山の主である猪。
つまり、大切に被っていたのは母猪の形見だった。
伊「うるせぇんだよ、ボケカスがァアア!!
返せそれェ!!」
——獣の呼吸 陸ノ牙——
「伊之助くんっ、まって!!」
ダッと泰葉が駆け出す。
『まぁ、人の話は最後まで聞きなよ。
こんな巡り合わせ、奇跡でしょ』
すると、バッと伊之助の上半身に斬撃が入る。
(間に合わなかった…!!)
次の斬撃をしようと構える童磨。
泰葉は伊之助に飛びかかり、童磨の攻撃を避けた。