第43章 仇と執念
——蟲の呼吸 蝶の舞 戯れ——
——花の呼吸 肆ノ型 紅花衣——
ふわっと軽く舞い、見惚れている間にこんな可愛い子達から出ると思わないえげつない攻撃が繰り出される。
しのぶのたくさんの蝶が一斉に通り過ぎるような素早い突き、カナヲの刀の軌道はまるで天女の羽衣のように美しかった。
上弦の力は柱3人分と言われる。
しのぶとカナヲが出来るだけ童磨の体力を削ろうと、自分たちの体力を消耗するであろう呼吸を何度も使って仕掛ける。
泰葉の治癒能力は傷はあっという間に治せるが、体力はまた別問題。
肉体的疲労は回復するが、精神疲労は心の問題なので回復できない。
いつ殺されるか分からない強い鬼との戦い。
しのぶの精神疲労はものすごいだろう。
『こんなにたくさんの女の子達と遊べるなんて思ってもなかったな!』
童磨は扇を振りながら、まだ笑顔を見せている。
刃物のような扇の淵に触っては斬れてしまう。
それを避けるのに必死だった。
泰葉も構えをとった。
ぐっと足に力を込めて強く踏み込み、童磨の間合いに詰める。
一瞬で童磨の視界には泰葉。
わぉ…と声を出す前に、童磨の左頬には拳が打ち込まれる。
『ぐぁっ!…その速度、ホントに君は何なの?』
ビュンと振られる扇を避けて、後ろに回りながら足先で扇を下から蹴り上げる。
扇こそは落とさないものの、その頑丈なはずの扇にはヒビが入る。
(この娘、本当に何なんだ?扇にもヒビが入るほどの威力…)
その後も泰葉、しのぶ、カナヲの3人からの攻撃が次から次へと降り注がれる。
カチャン…
その時、何かが落ちる音がした。
泰葉が振り返ると刀を落とし、膝を突くしのぶ。
し「くっ…まだ…」
しまった…
心労が極限まで来てしまったんだ…。
しのぶの身体は人間。柱とていつまでも体力も続くものではない。
「しのぶさん、そこは危ない!」
手足に力が入らないのだろう。
カタカタと震える身体はいうことを聞かないようだ。
そんなしのぶに童磨が気付かないわけもなく、ニヤリと笑うとしのぶに向かってきた。
泰葉は童磨の動きよりも速くしのぶを横抱きにした。そして、一番遠い扉の付近にしのぶを横たわらせる。
「少しでも休んでて。出来るだけあいつの事、弱らせるから…!」