第43章 仇と執念
しかし、その時
「あなたも言い残すことは?」
冷たく童磨の耳元に囁かれる。
それには思わず童磨も目を見開く。
童磨の目には大きく拳を振りかぶった泰葉が目一杯に映っていた。
音も、気配も何も感じなかった…
ドゴォッ
そう童磨が思った時には泰葉の拳が顔面にミシッと音を立ててめり込んでいた。
あまりの衝撃に童磨の腕からしのぶがするりと落ちていく。
強く抱きしめられていたのか、一瞬気を失っている。
バンッ
部屋の扉が開かれた。
入ってきたのはカナヲ。
カナヲの目に入ったのは、地面へ落ちていくしのぶと、童磨に拳を打ち込む泰葉の姿。
しのぶがやられてしまったと思ったカナヲは「うああああああ!!」と叫び、斬りかかろうとした。
その時、しのぶが指文字で童磨の能力を瞬時に伝えられる。
カナヲはしのぶはまだ生きていることを確認し、童磨との距離を取った。
しのぶも意識を取り戻し、ふわっと橋に降り立つ。
泰葉もストンと、着地する。
童磨がニヤリと笑いながら、距離を取って地面に降りる。
『いい拳だねぇ。普通の女の子の力じゃない!
君、特殊な力を持っているのかい?さっきも傷を治したし…。
いいね!君の力も欲しいよ!
君を喰べさせてくれないかな⁉︎』
「喰べたいなら喰べればいい。
でも、自分の行動には責任を持ちなさい。」
童磨は泰葉の言っていることが理解できず、頸を傾げている。
し「カナヲ。あの作戦を、覚えていますね?」
カ「はい、師範。」
あの日の作戦。
それは泰葉の細胞に壊死の力があると分かった時のこと。
できる限りの攻撃を仕掛け、弱らせたところに泰葉の壊死の効果を入れた藤の毒を打ち込むというもの。
下弦程度の鬼ならば即死だと思うが、上弦…ましてや数字の低い鬼は毒を分解する力が長けている。
万が一、泰葉の力も分解されてしまっては大変なので、出来るだけ鬼の力を弱らせてから打ち込みたい。
し「いきますよ、カナヲ。」
カ「はい」