第43章 仇と執念
「しのぶさん!しのぶさん!!」
泰葉は童磨には目もくれず、しのぶに呼びかけた。
(だめだ、出血がすごい。しのぶさんはあの飴を舐めていないのかしら…)
泰葉の血から作った飴。それは柱、全隊士に5粒ずつ配られた。
自分が必要だと思った時に服用すること。
使うタイミングは慎重に。
そう伝達されていた。
しかし、今のしのぶにそんなことは言っていられない。
泰葉はしのぶの顎をあげ、親指をしのぶの口にねじ込み、口を開けさせた。
そして唇を押し付けて唾液を流し込む。
目を見開いたしのぶだったが、段々と傷が塞がり回復していった。
『わぁ!なんだい、君たちそういう仲だったの?
そう、じゃぁ2人纏めて楽にしてあげるね。
そうすればいつまでも俺の中で一緒だよ!』
——しのぶならちゃんとやれる…頑張って。
意識が戻ってきたしのぶは、目の前の泰葉に気づいた。
し「…はっ!!」
「良かった!大丈夫?」
し「はい!ありがとうございます。」
童磨がミシミシと床を軋ませ、じわりじわりと近づいてくる。
し「この血鬼術はなるべく吸い込まないように。
細胞が壊死する…」
「…!分かった。」
しのぶはゆっくり立ち上がる。
『え…立つの?立っちゃうの?えー…
君、ホントに人間なの?
鎖骨も肺も肋も斬ってるのに。
君の体の大きさ…その出血量だと死んでてもおかしくないんだけど…って…あれ?』
童磨も戸惑うのも当然。
しのぶの足元には大きな血溜まり。そして、服にもべったりと血がついている。
しかし、身体は綺麗に戻っていたのだ。
し「残念ですが、あなたともう少し色々試さねばならないようです。」
狙うならやはり急所の頸。
頸に毒を叩き込めば勝機はある。しのぶはコロンと飴を鳴らした。
じんわりと柘榴のような味がする。
——蟲の呼吸 蜈蚣の舞 百足蛇腹——
ギチギチッとしのぶの足がしなり、強く踏み出した。
その踏み込みは橋を割るほど。
そして四方八方にうねる動き。
速い!
攻撃が読めない!
童磨が対抗しようとするが、がむしゃらに扇を振るだけだった。
蝶の羽織が袖が斬られて、羽を失った蝶のようにはらりと舞う。
ぐっと体勢を低くとり、そして思い切り下から童磨の頸を狙い、強く突き上げた。