第42章 僕のものに
ニヤッと笑う凝慘は泰葉の身体を操る。
シュンッと一瞬にして杏寿郎の目の前に移されれば、顔に向かって拳を振りかざす。
それを杏寿郎は手のひらで受ける。
しかし、その拳はとても女性とは思えないほど重かった。
杏寿郎がその重い拳に気を取られていると、すぐに蹴りがくる。
それも受け流すと、ぐるんと泰葉の身体が回り、回し蹴りがかかってくる。
激しい攻防が繰り返され、泰葉の目から涙が止まらなかった。
泰葉は杏寿郎の事など殴りたくない。
その気持ちが痛いほどわかる杏寿郎は、どうするかを必死で考える。
凝慘は涙に濡れ、悲痛な表情で杏寿郎に向かわされる泰葉を見てこの上ない高揚感を得ていた。
同時に杏寿郎の困惑した表情。
堪らなかった。
激しい攻防を繰り返し、自分の意思でなく身体を動かされている泰葉は、だんだんと足がもつれるようになってきた。
杏(このままでは…泰葉の身体がついていかない…)
そう思った杏寿郎は賭けに出る。
泰葉が間合いに入り、杏寿郎の脇腹に拳を向ける。
杏寿郎は意識を脇腹に集め、その拳を喰らった。
「杏寿郎さんっ…!」
泰葉の悲痛な叫びが聞こえる。
意識を向けたので、なかなかな衝撃だが骨を折らずに済んだ。
そして、脇腹に入った泰葉の右手を掴み、彼女の後頭部に手を当ててグイッと引き込んだ。
そして、唇を合わせる。
少なくとも彼女の傷を治せるはずだ。
そして、恐らく…
「んん!んー!」
泰葉は驚き目を見開く。
しかし、全身操られた身。
その口付けの合間にも凝慘は容赦なく泰葉の身体で攻撃を仕掛ける。
右手が塞がれているので、左手で拳を打ち込まされる。
杏寿郎の右脇腹に何度も打ち込まれ、その度に杏寿郎から苦しそうな声が漏れた。
(お願い杏寿郎さん、もう放して…
このままでは貴方の身体を痛めつけるだけ…)
そう思いながら涙を流す泰葉に、杏寿郎は口付けを止めなかった。