第42章 僕のものに
凝慘がピッと指を杏寿郎に向けると、操り人形のように泰葉の身体は杏寿郎の方を向く。
泰葉の肩を抱き、右の首元から耳にかけてベロっと舐める。
気持ち悪さで泰葉の顔は歪んだ。
『あぁ、早くあいつを殺して、絶望に満ちた君を見たい。
さぞ官能的な表情をするのだろうな。』
杏寿郎は額にこれまでにないくらい筋を立てた。
そして左頬に痣が浮かび上がる。
刀鍛冶の時よりも更に濃く、はっきりと。
炎が燃え上がるような赫と橙が入り混じった様な色をしている。
杏「貴様ぁ!!!絶対に許さん!!!!」
杏寿郎の声で部屋全体がビリビリと振動する。
『はははは!!!
まずはお前の愛するこの女を殺すことができればなぁ!!』
そう言って指先を動かし、泰葉の身体を操った。
「くっ、嫌!杏寿郎さん!避けて!」
泰葉の意思とは関係なく、拳が作られる。
そして、ぐんと引かれるように杏寿郎に飛びかかっていった。
拳が杏寿郎の顔面目掛けて振りかぶられる。
杏寿郎はそれを避けると泰葉の拳は宙を舞い床に叩きつけられた。
「ぐっ!!!」
泰葉は強く床に拳を叩きつけられ、痛みに顔を顰める。
泰葉の意思で戦っている分には、戦闘能力が作用しているが、今はただ凝慘に操られている。
力も泰葉のものではなく凝慘のもの。
よって、ただただ杏寿郎が避ければ泰葉の身体は建物に打ち付けられ、痛めつけられるだけなのだ。
『良い!痛いだろうなぁ!
柱よ、お前が避ければ泰葉の身体は痛めつけられるだけだ。
血が流れようと、意識を失おうと関係ない。
俺が満足するまで踊り続けるんだ!!』
杏「…泰葉…。」
杏寿郎はぎりっと唇を噛んだ。
泰葉にかかった血鬼術を解くには金崎の頸を斬るしかない。
しかし、ただ向かっていっても泰葉を盾にするだろう。
杏寿郎は刀を鞘に戻す。
間違っても泰葉を斬りつけるわけにはいかない。
杏「泰葉!
俺が全て受け止める!!」
杏寿郎も構えをとった。
「杏寿郎さん…」
泰葉の目から涙が溢れた。