第42章 僕のものに
それぞれの落とされた場所は違っていた。
泰葉は凝慘に掴まれたまま落ちて行く。
そこは先程連れてこられた大きな旅館の様な建物。
上下左右定まらなくて気持ち悪い感覚だった。
凝慘はある部屋にストンと降りる。
泰葉は、ある意味凝慘のお陰で衝撃は少なかった…が、やはり不快極まりない。
「嫌!放して!」
そして、この部屋に降り立ったのはもう1人。
ふわりと炎の羽織を靡かせた杏寿郎。
杏「貴様…泰葉さんを返してもらう。」
—— 炎の呼吸 壱ノ型 不知火!!——
大きな炎が閃光の様に伸び、泰葉を掴む凝慘の腕目掛けて向かってきた。
しかし、流石は元甲の隊士。
そう簡単に斬られるわけもない。
『そんなにこの女に熱くなるか…。
泰葉は僕のものだ。
ずっと手に入れたかった…。そして、ようやく僕の手の中に…!」
凝慘は泰葉の手首をギリギリと握る。
あまりの力に顔を顰めた。
杏寿郎は眉間に皺を寄せる。
杏「君が彼女を手に入れたいのは何のためだ?
愛があるか?自分の嗜好を満たしたいからじゃないのか?」
『僕を満たしてくれるから愛しているんだよ。』
杏「大人しく、心優しい女性を言いなりにさせて
反抗すれば鞭を打つ…それで愛しているなど
よく言えたものだな!!!」
泰葉は杏寿郎の言葉に目を見開く。
なんて非道な男だったのか。
憐れんだ様な、ひどく歪んだものを見るような…
そんな目で見てしまった。
泰葉の目を見て凝慘はまた不気味な笑みを浮かべる。
『良い顔だ…
泰葉は僕のもの…
僕のために踊ってもらおう。』
凝慘は笑っているような目を少し開き、瞳が見えるようにする。
杏「泰葉!奴の目を見てはいけない!!」
それは泰葉も直感的に分かっていた。
しかし、金縛りのように体が動かない。
瞬きすら許されなかった。
——血鬼術 凝迷の笑み——
ガンっと頭を打たれたような感覚を喰らった後、一瞬意識を失う泰葉。
しかし、すぐに目を覚ましたかと思うと、なんと身体が自分の意思と関係なく動いている。
「え…あ…何…これ…」
初めての感覚に戸惑い混乱する。
『さぁ、僕に君の舞を見せておくれ。
…あいつを、君の手で殺せ。』