第40章 作戦
おそらく、行冥にはお館様からの指示があるはずだ。
なのでその連絡を待つ。
なるべく通常通りに。
杏「…泰葉さん、顔に出ているぞ。」
杏寿郎が眉を下げて笑った。
「えっ、本当に⁉︎」
泰葉はペタペタと頬を触る。
そんなに気難しい顔でもしていただろうか。
杏「大丈夫だ。上手くいく。」
そう確信を持ったかのように杏寿郎が頷けば、本当に何も心配ないと思えた。
肩の力が抜けるのを感じる。
あの話の後から泰葉も稽古に参加した。
走り込みはまだまだ余裕ではあったが、腕立て伏せと腹筋には流石に悲鳴を上げた。
しかし、男性隊士と同じくこなすのは皆驚いていた。
そして、1日の稽古が終わり、離れの縁側。
湯浴みを済ませた泰葉と杏寿郎は月を見ようと腰掛けた。
今宵は少し月が欠けている。
杏「満月まではまだかかりそうだな。」
そう月を見上げる杏寿郎は髪と瞳がキラキラと輝いて綺麗だと思う。
無意識に見惚れてじっと見ていたからか、杏寿郎は口元に手をやって、くくっと俯きながら笑った。
杏「俺の横顔などそんなに見ても面白くないだろう。」
「べつに面白いと思って見てないわ。綺麗だなと思ったの。」
杏寿郎は泰葉に顔を向けてふと笑った。
杏「初めて会ったあの日も、この瞳の色を綺麗と言ったな。
しかし、泰葉さんの瞳も珍しい色ではないかもしれないが、澄んでいてとても綺麗だ。心を表していると思う。」
「ふふ、そんなに褒めても何も出てこないわよ。」
杏寿郎は泰葉の頭を撫でてスッと髪の毛の束を指に絡める。
杏「髪、伸びたな…。
初めて会った時は肩くらいだったろう?
こう思うと、それだけの時間が経ったのだと感じる」
泰葉は杏寿郎に言われて、確かに…と思った。
杏寿郎に会ったあの日からなんだかんだと忙しく、髪も切っていなかった。
肩くらいの髪はいつの間にか胸あたりまで伸びていた。
髪…
「杏寿郎さん、お願いがあるの。」
杏「…?」