第5章 煉獄兄弟
男は女性に滲み寄る。
しかし、女性は一歩も引かない。
すると、男は女性の腰元から尻を撫でた。
「大きさも形も美味そうだ。」
女性の顔は青ざめ、引き攣る。
千寿郎は今まで感じたことのない、怒りに震えていた。
外道な奴…
不愉快極まりない
穢い手で彼女に触るな
お前が触っていいような女性じゃない!
男は「こちらも…」と、胸の膨らみを掴もうと手を伸ばす。
「穢い手で触るな!!!!」
千寿郎は男と女性の間に入り、女性を後ろに匿った。
小さな勇者の登場に狼狽える男。
しかし、12歳そこらの少年。
男はこんなのに負けるわけがないと、フンッと鼻で笑う。
「君は…」
女性は千寿郎の登場に驚いている。
千寿郎は怒りでおかしくなりそうだった。
沸々と身体中が熱くなってくる。
力で敵うだろうか…
俺ならできる…
しかし、身体が熱い…
まるで熱が出ているみたい…に
グラッ
千寿郎の視界が歪んだ。
女性の心配そうな顔が見えたかと思うと、
千寿郎は意識を手放した。
男「フンッ、口ほどにもねぇ。
んなガキ、さっさと始末してお前をいただくとしよう。」
ニヤリとまた笑い、男は千寿郎の襟元を掴む。
「貴方、最低ね!
この少年の方がアンタなんかより、よっぽど男前だわ!!」
女性が倒れる千寿郎を抱きとめ、
叫んだその時、
「俺の連れと、弟を可愛がってくれたようだな。
…今度は俺とも遊んでくれるか?」
と、女性の後ろから、凄みの効いた声が聞こえた。
男はその顔を見ると、ガタガタ震え出す。
その視線の先は、杏寿郎だった。
杏寿郎は、女性の肩を抱き、
男を見下すように冷たい視線を送りつける。
そして、「話を合わせてくれ」と女性に囁き
先程買ったばかりの木刀を男の目寸前に振り落とす。
「貴様は、ここで何を騒いでいたんだ。」
男は慌てたように喋り出す。
「い、いや、買い物を済ませて帰ろうと思ったら、婆さんが代金が足りないと言ってきて…」
嘘もいいところだ。
「来てくれたのね!
全部嘘よ!釣り銭が足りないってお婆さんを怒鳴りつけていたの!
それにね、この子にも酷いことしたし、私のお尻まで触ったのよ!」
女性が杏寿郎にしがみついて、演技している。
杏寿郎は、合わせてくれて有難いと思ったが、その言葉に怒りが収まらなかった。