第38章 新たな協力者
泰葉は離れに入り、着替えようと着物を出した。
久しぶりの自分の部屋。
飾っていた杏寿郎からの薔薇の花は、残念ながら枯れてしまった。
紙に枯れた薔薇を包み、あとで杏寿郎に話そうと思っていると、ぱたんと襖の閉まる音がした。
驚いて振り返ると、杏寿郎が立っていた。
杏「薔薇は枯れてしまったか?」
「うん。しばらく部屋を空けてしまっていたしね。…ちゃんと処理してから出るべきだった。ごめんなさい。」
そう紙に包まれた薔薇に視線を落とす泰葉を杏寿郎はそっと抱きしめた。
杏「謝ることじゃない。この薔薇も水につけていってもらって寿命を全うしたことだろう。枯れてしまうのも、美しい時期を過ごしたからこそだ。」
「うん。私にはこの薔薇は特別美しかったわ。」
杏「では、この薔薇も本望だったろう。」
杏寿郎は泰葉を自分の方に向かせ、顎をくいっと持ち上げる。
つい…と親指で唇をなぞれば、泰葉の身体全体が粟たつ。
そのまま杏寿郎の顔が近づいてくれば、泰葉は自然と目を閉じる。
…しかし、なかなか唇に感触がない。
不思議に思い、そっと目を開くと杏寿郎のぱっちりとした目が泰葉を捕らえた。
「!!!」
驚いていると、杏寿郎がふっと笑う。
杏「泰葉さんも慣れたものだな。近づいただけで自然と目を閉じるようになるとは!」
「えっ…?」
どういうことかと首を傾げると、杏寿郎は目を細め微笑む表情には色気を帯びる。
杏「初めの頃は、なかなか目を閉じてくれなかっただろう。
こうして…触れそうになるくらい近づいても…」
そう言いながらまた近づく杏寿郎の唇。そしてまた泰葉は自然と目を閉じる。
ちゅ…
軽い口付けを交わし、泰葉が顔を離そうとすると、ぐっと後頭部に手が回され押しつけられた。
「んぅ⁉︎」
いきなりのことで目を見開くと、杏寿郎の目に緋(あか)が灯る。
その瞳で見られれば動けなくなる。
身体を重ねた時に気づいたのだが、杏寿郎が欲情すると瞳の緋が少し濃くなるように感じる。
泰葉の気のせいなのかもしれないが。
すると、まだ泰葉の唇が開いていないのに、杏寿郎の舌がねじ込まれてきた。
慌てて口を少し開く。ぬるりとした杏寿郎の熱い舌が動く。