第5章 煉獄兄弟
千寿郎は、瞬きもなく涙が溢れている。
杏「千…、ここで救世主が現れたんだ!」
杏寿郎も物語の展開のように、気丈に振る舞いながら話す。
千「…炭治郎さん…達ですか?」
杏寿郎はニコッとして首を振る。
杏「竈門少年は、重症で動けない。
猪頭の少年にも俺たちの動きは、目で追えていなかった。
しかし、その一瞬に入ってきた女性がいたんだ。
彼女は奴の腕を蹴り飛ばし、俺を助けてくれた…。」
千寿郎は、はて?と思った。
しのぶか蜜璃であれば、名前で呼ぶだろう。
千「新しく…女性の柱の方が入られたのですか?」
予想通りの反応が来た。
杏寿郎はニヤリとして
杏「…驚くなよ?
その女性は、一般人だ!」
杏寿郎の言葉に、千寿郎は口を開け、涙も引っ込んだ。
柱と鬼の戦いの加勢に、一般人。
しかも女性。
それに柱の兄が死を覚悟する戦いに。
杏「そのあと、彼女は素手で上弦の参とやり合った。
互角…もしくはそれ以上だったかもしれない。
日輪刀を持っていない彼女には頸は切れない。だから、援護してもらい頸を切りに行ったんだが、夜明けに焦った奴は、身を引きちぎって逃げてしまった…。」
千寿郎はどういうことかと、ハクハクして杏寿郎をみた。
杏「うむ!兄にも分からん!!!」
眉を下げて杏寿郎は千寿郎の頭を撫でた。
「これが、任務の話だ。
女性に援護されて尚、頸が切れず…不甲斐ない。」
千寿郎は、首を振る。
千「僕は…、僕は兄上を誇りに思います。
自分の命をかけて、人々の命を守り抜いた。
例え、誰かに助けられていようと、兄上はご自分の責務を全うされました!」
真っ直ぐな瞳で伝える千寿郎を、杏寿郎はギュッと抱きしめた。
杏「ありがとう!
そうだ、兄は死の淵で母上に会ったぞ!
微笑んでおられた!」
杏寿郎は最後に言われたことがあったように思ったが
思い出せなかった。
千「死の淵で…は嫌ですが、僕も母上とお会いしたいです!」
兄弟で微笑み合い、明日の外出に向けて眠る事にした。
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杏寿郎は一人布団の中で思い出す。
「思い出したのなら、それはそれで彼女の選択した運命。」
ならば、自分が考えるまでもないな、と目を閉じた。