第5章 煉獄兄弟
湯浴みを終えて、縁側に座る杏寿郎。
明日は満月だ。
杏「生きている…」
一度死の淵をみて、また生きてるというのは
なんとも不思議な感覚で、正直まだ地に足がついていないようだ。
千「兄上、お茶でもどうですか?」
少し夜風で冷めてきたところに、千寿郎は温かいお茶を持ってきてくれた。
杏「あぁ、ありがとう。
千寿郎、まだ眠くなければ少し話そう。」
千「はい。」
杏寿郎はそう誘ったものの、何を話そうか…
食事の時にも沢山話した為、ネタも尽きたも同然。
すると、
千「兄上、任務の…任務のお話はしていただけませんか?」
千寿郎が遠慮がちに聞く。
杏「しかし…千は任務の話を聞いて、辛くならないか?」
千寿郎は首を振る
「辛いです。辛くなります。
…しかし、兄上がどのように戦い、そして、どのように生きて帰ってこられたのか…
僕も…知りたいのです。」
千寿郎にとって、今は唯一の家族といってもいい
杏寿郎に起こった出来事を、知っておきたい。
辛くとも、涙を流そうとも
千「そして、こうして生きておられます。
その事実があるので大丈夫です。」
杏寿郎は頷いた。
知らぬ間に強くなったものだ。
杏「では、順を追って話そう。」
杏寿郎は無限列車の話をした。
千寿郎はハラハラしながらも、無事に討伐したことを知ると
千「…すごいです!流石兄上!
炭治郎さん達も、立派な方なんですね!」
何か物語を聞いてる気分になってやいないか?と、少し思ったが、そうでもしないと、身内がこれから死にかける話も聞いていられないのだろう…
杏「しかし、問題はそこからだった…。」
千寿郎は唾を飲む。
上弦の参との戦いを、聞いているうちに、千寿郎の大きな目には涙が溜まり始めた。
自分の兄が劣勢の戦い。
そこにいたなら、もう逃げてくれと思ってしまうだろう。
捨て身の覚悟で、奥義を出す時はどんな気持ちになったのか、
千寿ろはポロポロと大粒の涙を流す。
杏寿郎は眉を下げ、ここから話を続けるべきか悩んだが、ここまで話しておいて…というのと、
『聞きたい』と千寿郎が決意した気持ちを受け止めるためにも、話を続けた。
杏「死ぬと分かりながら、敵に飛び込んでいったが首は斬れなかった。」
自分で話してて、何度も悔しくなる。