第35章 誕生日 ❇︎
「も、もう大丈夫。」
落ち着きを取り戻した泰葉は杏寿郎から離れた。
杏「歩けるか?そろそろ家に戻ろう。」
「うん、歩けるわ。こんなになっちゃうとは…恥ずかしい…」
杏「いや。」
杏寿郎は泰葉の右手を握り、その手に口付ける。
「その分感じていてくれたということだろう?
俺からしたら、嬉しい限りな反応だ…」
ニヤッと悪い顔をする。
杏「この先が楽しみだ…」
泰葉はもう気が気じゃない。
黙って歩くのが精一杯だった。
杏「ただいま戻りました!」
「戻りました!」
千「兄上!泰葉さん!お帰りなさい!
夕飯の支度は済んでいます!なので、居間へとどうぞ!」
泰葉と杏寿郎は服も汚れていなかったので、手洗いを済ませて居間に向かう。
すると、テーブルの上には豪勢な食事が並んでいた。
さつまいもご飯に、さつまいもの味噌汁。
鯛の塩焼きに、泰葉の作り置き。
その他にも、千寿郎が頑張って作ったのだろうと思われるものがたくさん並ぶ。
杏「おぉ!今日の食事は一段と美味そうだ!!
ありがとう、千寿郎!!」
千「いえ!兄上の誕生日なので!!」
すると、そこへ槇寿郎がやってきた。
槇「今日は非番だろう?少し…飲むか?」
そう言って、手に持った日本酒を掲げた。
いつもより、良いやつのようだ。
『いただきます!』
槇「誕生日か…おめでとう。」
千「兄上!おめでとうございます!」
「杏寿郎さん、おめでとうございます!」
杏「こんなに嬉しい誕生日は久方ぶりだ!!
ありがとうございます!!」
食事が始まると、杏寿郎の「うまい!」「わっしょい!」が響き渡る。
泰葉達も楽しく食事をする。
ある程度お腹も満たされたところで、杏寿郎は槇寿郎と酒を酌み交わす。
槇「…もしかしたら、この歳を迎えられなかったかも知れないのだな。」
杏「はい。あの時、泰葉さんが居なければこうして歳を重ねることは叶いませんでした。
そう思うと、本当に不思議な気持ちです。」
槇寿郎は複雑な気持ちだった。こうして生き永らえているのにも関わらず、痣が出た事により25までしか生きられないとは…。