第35章 誕生日 ❇︎
「えっ、ちょっと…」
杏「泰葉さん、すまないが我慢ができそうにない。
今、君に口付けたい。良いだろうか…。」
杏寿郎は泰葉を壁際に押し迫り、泰葉の顎をクイっとあげる。
熱を孕んだ瞳を向けられれば、泰葉の身体はゾワっと震えた。
杏「耐性のない俺を笑ってくれて構わない。
本当はあの建物の中で口付けたいくらいだった。」
泰葉は首を振る。
「笑わないわ。私も同じ気持ちだった。
杏寿郎さんに触れたかった…。」
泰葉が言い終わった途端に、杏寿郎は唇を押し付けた。
ちゅっ、ちゅっと何度も触れるだけの口付けをする。
活動写真の影響か、少し呼吸が荒い。
時折フー、フーと息遣いが聞こえる。
泰葉も一生懸命に応えようと、啄むように口付ける。
息を吸おうと口を少し開いた時、ぬるっと杏寿郎の舌が入り込む。
熱く激しく動き回る杏寿郎の舌。泰葉の舌を追い回す。
「んぅ…ふ…んん…」
甘い声が漏れる。
それがエサとなり、杏寿郎の口付けは激しさを増した。
杏寿郎の右手は泰葉の腰に回され、左手は泰葉の耳元から後頭部にかけて添えららている。その手に髪はくしゃっと巻き込まれていた。
熱く情熱的な口付けに、先に白旗を振ったのは泰葉だった。
もう、足腰が立たなくなってしまったのだ。
ガクンと膝が崩れ落ちそうになり、杏寿郎が受け止める。
杏「む…。すまない、少しやり過ぎてしまったようだ。」
手の甲で口元を拭いながら、眉を下げる。
興奮からか、肩で息をしているが、苦しそうな素振りはない。
一方で泰葉はハァハァと、肩で浅い息を繰り返す。
目には涙を浮かべ、トロンとしている。
髪は乱れ、足にもまだ力が入らない様子だ。
杏「今の泰葉さんを、他の奴らに見せるわけにはいかんな。
もう少し落ち着いたら、また歩こう。」
本当は横抱きにして行っても良かったのだが、泰葉は恥ずかしがって嫌だろうと思い、辞めておいた。